花火の日

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    花火の日
        By Fangoln


 梅雨も過ぎ去った初夏。
 汗だくになりつつ家に帰ると、そこは戦場だった。

「や、やめろーっ!」

 駆け抜ける足下で、ネズミ花火が爆発する。

「あははーっ、待てーっ!」

 追いかけてくる真琴。
 その手には、各種花火とライター。
 ひゅうひゅうと音を立て、今度はロケット花火が脇をすり抜ける。

「危ないぃ! いいからやめろーっ!」
「いやっ!」

 一体いくら遣ったのやら。
 次から次へと花火を取り出す。

「花火は人に向けるなって、書いてあるだろーっ!」
「遊んでくれない、かんちゃんが悪いのよっ」

 説得も通用しない。
 いや、確かにこのところ忙しくて、ろくに真琴と遊べていなかった。
 何に忙しかったかは、とりあえず置いておくとして。

「次は……これよっ」

 嫌な予感がしてちらりと振り返ると、今しも投げられようとしている爆竹の束。

「はわわわわーっ!」

 どこぞのメイドロボのような叫びをあげつつ、身を翻す。

 ぽいっ。

 一瞬前まで僕が立っていた所に投げられた爆竹が、豪快な連続音をたてる。
 それを後目に、逃げ出した。
 ――追ってこない。
 
「諦めたのかな? ……そんなはずないか。ということは……」

 半分以上の確信と共に、玄関にむかう。
 案の定。

「あはは、逃げられないわよぅ」

 玄関から洩れる明かりを逆光に立ちふさがる、少女。
 夏に相応しく、Tシャツにホットパンツ。
 頭には狐耳、腰にはしっぽ。
 顔にはニヤリと笑みを浮かべ。
 そしてその手には――花火とライター。

「っていうかそれは十六連発打ち上げ花火ーっ」
「あははっ、しゅほーはっしゃーっ!」

 僕に向けられた筒の先に、赤い光が灯る。

「やらせるかぁ!」

 一瞬の閃きに従い身をひねる。

 ぽしゅ。

 軽い音と共に、一発目が僕の脇を掠めていく。
 ――二発目までのタイムラグ。
 狙うのはここしかないっ!

「そこだぁっ!」

 初弾をかわされて驚く真琴の懐に飛び込むと、手刀を振り下ろす。

「あぅっ!」

 狙い違わず、その剣呑な筒を地面にたたき落とした。
 あとは踏みつぶして火を消せば……。

 ぽしゅっ。

「あ……」
「あぅ?」
「し……」
「し? し、ってなによぅ」
「しっぽが……」
「しっぽ?」
「しっぽが火事だあっ!」
「え? ……あーっ! あぅーっ! 消してーっ!」

 間に合わなかった。
 踏みつぶす直前に発射された火の固まりは、まさに狙ったかのように真琴のしっ
ぽを直撃した。
 ……なんて悠長に解説してる場合じゃない!

「あぅーっ! あついーっ!」
「だー、いわんこっちゃないっ! 水、みずーっ!」

 急いで玄関脇にある水道の蛇口に飛びつくと、運良くつながっていたホースを構
える。

「真琴っ!」
「え? あぅーっ! つめたーいっ!」

 ホースの先から迸る水が、狙い通りにしっぽの火を消火する。
 ……ちょっとばかり、本体にも影響があったが。

「あぅー、びしょびしょー……」
「ははは、水もしたたるいい女、かな?」

 いや、実際に水がしたたってる。しっぽから。耳から。そして服から。
 そして服は……。
 …………。
 着けてないのか、と思ったり。

「かんちゃん、どこ見て……あーっ!」
「あ、いや、ごめん、別に狙ったわけではないんだけど、でもこうなるのはわかっ
ていたような気がしないこともなかったり……」

 しどろもどろに言い訳する僕に近づく真琴。
 その顔には……やけに楽しそうな笑み。

「あはは……」

 危険だ。この笑みは危険だ。
 体内の警報が、最大音量で鳴っている。
 逃げよう。何かされる前に逃げよう。

「えーと、ご、ごめんっ」
「ふふふ、遅いわよっ」

 目にも留まらぬ早さでホースを引ったくられた。
 ということは、この後にくるのは……。

「かんちゃんも暑いでしょ?」
「いえ、えーと、その暑いですけど、クーラーで十分ですので、はい……」
「あはは、問答無用よっ!」

 バシュー!
 そして濡れネズミがもう一人誕生する。

「うわっぷ、ひゃ、うひーっ!」
「どお、涼しくなったでしょ?」

 卑劣なことに顔を集中的に狙ってくるので、顔を上げることもままならない。
 腕でかばいつつなんとか目を開けると……目の端に留まる緑のホース。
 これだっ。
 水の勢いでよろめいた振りをし、さりげなくかかとで踏みつける。

「あはははは……あれ? 出なくなっちゃった……」

 心底残念そうな表情を浮かべる真琴。
 振ってみたり。叩いてみたり。先端から中を覗き込んでみたり――
 今っ!
 その瞬間、足を跳ね上げる。今までせき止められていた水が、音を立てホースを
突き進む。

「? ――っ!」

 直撃。もちろんクリティカル。
 見事なまでに真琴を、真・濡れネズミへとレベルアップさせた。

「うむうむ。これこそまさに天罰覿面と……」
「かーんーちゃーん」

 地獄の底から響くかの様な声。
 しまった。勝ち台詞なんて言ってるんじゃなかった。
 後ろを振り向いて逃げ出そうとするが――
 がしっ。

「え、えーと……ベ、ベルトなんか掴んで、ど、ど、どうしようというのかな?」
「こう、よっ!」

 不意に下半身に広がる、不快感。妙な冷たさ。
 というか……。

「あははっ、お漏らしみたいー」
「だーっ、服の中にホースを入れるなんて反則だーっ」

 慌てて引っこ抜くが……もう手遅れ。
 もう冷たいことと言ったら……。

「あはは、そんなルール、ないもん」
「ほほう。そうかそうか。じゃあ僕がやっても何の問題もないわけだ」
「あぅーっ、えーと……」
「ふっふっふ、待てーっ!」
「あははっ! 助けてーっ!」

 楽しそうに逃げ出す真琴。
 ムキになって追いかける僕。
 こうして鬼ごっこが始まるのであった。

 そして半時後――。

「あはは、面白かったぁ」
「うぅ、冷たい……」

 濡れネズミ……というより、水浸しになった二人は、庭に転がっていた。
 芝生の上を流れる夜風が気持ちいい……はずなんだけど。

「うぅ、寒い……」

 下着まで濡れてるから、もう寒いだけ。

「あぅー、かんちゃんが悪いのよぅ」
「……真琴は寒くないか?」
「うん、涼しくていい気持ちよぅ」
「……若さだねぇ」

 そういうと大きく身を震わせる。

「さて、風邪をひきたくないし、そろそろ家に入ろうか」
「かんちゃん……」
「ん?」
「えと……つき合ってくれて、ありがと」

 わかっていたか。
 まぁあまりにもいつもの自分のキャラクタとは違っていたし。

「いやいや。最近真琴と遊んでなかったのは事実だし……それに僕も楽しかっよ」

 童心に還る、とは正にこのことだろう。
 日頃のストレスも、どこかへと霧散したような気がする。
 ただ、服のまま水遊びするのは、もうごめん被りたい。

「また今度、こんな風に遊ぼうな」

 すると真琴は、「今度」という言葉を聞いて、目を輝かした。

「うんっ、約束よっ!」
「まぁ、その時は、水着でも着ようか」

 そういうと真琴は、今更ながらTシャツが透けていることに気がついたようだ。
 両腕で胸を隠し、上目遣いで呟く。

「……えっちっ」
「大丈夫、暗くて見えないよ」
「あぅー、それはそだけど……」
「じゃあ僕は先に入るから」
「あ、待ってよぅ」

 そんなことを言いながら、心は既に真琴の水着姿に飛んでいた。
 夏――萌える季節は、まさにこれからである。


〜終わり〜


〜後書き〜

 これもまた、SS談義からの成果物です。
 その場で夏のSSのプロットを作る、ということになり、僕は花火をネタにプロッ
トを作りました。
 それがこのSSということになります。

 ……なんか途中に変な台詞が入ってますが、解る人だけ解ってください(^^;;

 では……逃走っ(爆)

 

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