奇跡の宴会(改訂版)

【日曜日】

 初出:2000/04/25
 改訂:2001/11/18

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『え? パーティ?』
『ええ。栞の全快祝いの、ね』
 家族揃って夕飯をファミレスで食べ、家に帰ってくると一本の電話が待っていた。相手は美坂香里。先ほどの夕飯の大騒ぎを思い出しながら、受話器を持ち直す。
『家族みんなでやればいいじゃないか』
『お父さんやお母さんとは、今日やったわよ。それに……一番お世話になったのは、真琴ちゃんだから』
「あぅー、真琴、なにもしてないよぅ」
 電話から洩れた香里の声に、思わず反論する真琴。普通なら聞こえることのない電話越しの声なのだが、真琴には十分聞こえるらしい。さすが狐耳。
 そんな真琴の頭を軽く撫でながら、そのことを香里に伝える。
『……と真琴も言ってるけど』
『それを判断するのは、あたしたちよ』
『とはいってもなぁ……』
 どうしようか。返答に困って、視線をあたりにさまよわせてみる。
 すると目に留まるのは──あゆ。
「え? ボクの顔に何か付いてる?」
「ああ、目と鼻と口が」
「うぐぅ、普通ついてるよっ」
「いや、天使なんだからもう少し変わった物がついてても──」
「もう、祐一君のいじわるっ」
 いつものようにあゆをからかいながら、俺はあることを思い出していた。
『相沢君、どうかしたの?』
『いやなんでもない、こっちのことだ。で、パーティだけどやろうじゃないか』
『そう。ありがとう。栞も喜ぶわ』
『ただし──』
 俺はそういうと秋子さんの方を見る。
「了承」
 さすが秋子さん、これだけでわかったようだ。微笑んでそう一言残すと、キッチンへと消える。もう準備に入るみたいだ。
『ただし、なに?』
『いや、うちでやらないか?』
『うち……って、いいの?』
 答えようとしたところを、名雪に横から受話器を取られた。
『いいよ。お母さん、賑やかなのが好きだから。もちろん、わたしもね』
『────』
 そのまま名雪と香里で、会話が始まってしまう。
 ようやく状況を理解したのだろう、あゆがポンっ、と両手を合わせて納得顔で頷いている。
「えーと……じゃあボクも秋子さんの手伝い、頑張るよっ」
「邪魔するなよ〜」
「平気だよっ、堕天使だもん」
「……堕天使だとなにがどう平気なんだろう?」
 思わず頭をひねっていると、横から腕を引っ張られる。
「ん? 真琴、どうした?」
「あぅー、パーティなんて、真琴どうしたらいいの?」
「どうもしないさ。みんなでワイワイ騒ぐだけだし」
「でも……」
 耳が垂れて、しっぽも不規則に揺れている。不安なんだな、きっと。
「大丈夫だって。みんな知ってる人ばっかりだぞ」
「あぅ……そだけど……」
「ほら、今日買ってきた服を着る、いい機会じゃないか」
 まだ見てはいないものの、よそ行きの服とかも買ってきたらしい。楽しみといえば、とっても楽しみだ。
「でもパーティって、なにか芸をしなきゃいけないんでしょ?」
「……一体どこからそんな話を?」
「漫画で読んだのよぅ」
 はぁ。
 思わずため息をつく。
「それは気にするな。漫画の話だ」
「あ、そうなんだ。よかったぁ」
「ま、とにかく今日は早く休んで、明日に備えることだな」
「うん、そうする」
「あ、真琴、先にお風呂入る?」
 ようやく香里との会話が終わったのであろう、受話器を片手に持った名雪がこちらを向いて声をかける。
「祐一、香里が祐一に替わってって」
 じゃあ一緒に入ろうか、などという会話を背に、名雪から受話器を受け取る。
『もしもし?』
『相沢君? じゃあ明日はよろしくね』
『ああ、任せておけ。……なぁ、明日、他に人を呼んでもいいか?』
『え? なんで……もしかして真琴ちゃんの関係?』
『ま、そんなところだ』
『もちろんよ。それに会場はそこなんだし』
『そうか。サンキュ。じゃ、明日な』
『ええ。よろしくね』
 そういって香里との電話を切ると、再び受話器を取り上げる。この一週間の関係者に電話をかけるために。
 関係者──奇跡を分け合った者たち、かな?

「あぅ……祐一……どう?」
 俺は自分の部屋の入り口で、思わず立ちつくしていた。
 朝、部屋のドアをノックする音に開けてみると、いつもとは全く違う格好をした真琴が立っていたのだ。
「あぅー……似合わない……かね……よね?」
「そんなことないっ!」
 思わず叫んでいた。見とれていたのだ。真琴の姿に。
「いや、よく似合ってるよ」
「あははっ、そかな?」
 中国服風の赤い服。残念なことに横にスリットは入っていない。でも真琴のしなやかな体に微妙にフィットして、強調すべき所を強調している。
 なにより、狐耳やしっぽが全然違和感なく見える。
「ふーん、こんな服、売ってるもんなんだなぁ」
 まさに、真琴のための服、って感じがする。
「えへへっ、じゃあみんなにも、見せてくるねっ」
「ああ、……って、俺に最初に見せに来たのか?」
「うんっ。だって……祐一に最初に見せたかったんだもんっ」
 くるっと振り返るとそのまま一段抜かしで階段を下りていく。しっぽが嬉しそうに揺れている。
「ま、いいか」
 一言呟くと着替えるために部屋に戻る。多分赤くなったであろう顔を真琴に見られなかったことに、内心ほっとしながら。

「お母さん、これどうすればいい?」
「それは斜めに切ってちょうだい。──ええ、それでいいわ」
「秋子さん、盛りつけできたよっ」
「ありがとうあゆちゃん、じゃあ次はこれ、お願いね」
「あぅ……、真琴は……?」
「真琴は座ってて。今日の主役なんだから」
 キッチンは戦場だった。秋子さんが作り、名雪が仕上げ、あゆが盛りつける。なかなかのコンビネーションと言えよう。
「あぅー、いいのかなぁ」
「いいんじゃないか? それに服が汚れるし」
 俺が声をかけると、四人共パッと振り向く。朝の挨拶を交わしながら、改めてキッチンの中を見回した。
「しかし凄い量だなぁ」
「ええ、ちょっと張り切りましたから」
 テーブルの上には既に乗り切らないくらい、料理が並んでいる。
 唐揚げ、ポテトフライ、サンドイッチといった定番から、肉まん、たい焼きまで。……たい焼き?
「秋子さん凄いんだよ、たい焼きまで作っちゃうんだもん」
「コツがあるのよ」
 ……コツとかそういう問題じゃないような気もするけど。
「祐一さんには、お客様のお出迎えをお願いできないかしら」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ真琴もっ!」
「そうね、お願いするわ」
 秋子さんがそういったとたん、玄関のベルが鳴る。俺はポンっ、と真琴の頭を叩いて走り出した。
「さっ、行くぞっ」
「あぅっ、待ってよぅ」

 一時間後。リビングには十人を越える人間が集まっていた。
「またずいぶんと集めたものね」
 香里が呆れたような顔で、話しかけてくる。
「うーん、おかしいな、こんなに多かったかな」
「いいじゃないですか。人が多い方が楽しいですよ」
「栞がそういうならいいんだけど……」
「それにお姉ちゃんだって、北川さんを呼んでるじゃないですか」
「え、そ、それは……」
 珍しく狼狽えた様子を見せる香里。そんな様子を微笑ましく思いながら、俺はリビングを見回した。
「あぅー、どきどきするよぅ」
「大丈夫ですよ」
 きょろきょろと周りを見回したかと思うと、急にうつむいたりしているのはもちろん真琴。隣に座った天野が、優しく声をかけている。仲のいい友達……って感じだ。
 もっとも、服は真琴と対照的に地味だ。本人にそれを言ったら、「落ち着いた服と言ってください」と反論してたけど。
「くー」
 うつらうつらとしているのは名雪。いや、もしかしたら寝ているのかもしれない。今朝も早くからご馳走の準備をしてたみたいだし、名誉の戦死ってとこかな。
 それはいいけど……エプロンは外した方がよくないか?
「……恥ずかしい」
「あははーっ、似合ってますよ、舞」
 出迎えた時、一番驚いたのが舞の格好だ。まるでお姫様みたいな服。あとで名雪に聞いたら、ピンクなんとかっていう有名なブランドらしい。もちろん、佐祐理さんもだ。きっとお揃いで買ったんだろう。
 しかも舞の頭には、うさぎの耳が揺れている。聞いたら、「真琴は狐さんだから」という答えが返ってきた。舞の心遣い……なのかな。
「うさぎ……いいなぁ。似合ってるなぁ。そう思いませんか、師匠?」
「落ち着け。そんなにジロジロ見るのは失礼だろう」
 俺は呼ばなかったんだが、北川と久瀬のコンビも来た。香里あたりから連絡が行ったんだろう、って想像はさっき証明された通り。
 ちなみに、北川の格好は燕尾服。北川らしいっていうかなんというか。
「みなさん、もう少し待ってくださいね。お料理、あと少しですから」
 そう言ってキッチンから料理を運んできたのは秋子さん。その手には大きなピザ。思わず唾を飲み込む。
 ……あれ? そういえばあゆがいないな。
「……なぁ名雪、あゆあゆはどうした?」
「うにゅ……あゆちゃんだよ……あれ、いない?」
「先ほど、自分も着替えると二階にあがりましたよ」
 秋子さんの言葉に上を見上げる俺と名雪。もちろん天井しか見えないのだが。
「あゆちゃんも昨日、服買ってたからね」
「へぇ、どんな服だ?」
「うーん、あゆちゃんらしい服かな?」
 あゆらしい服……。なんでだろう、幼稚園の園児服とか頭に浮かぶのは……。
「うぐぅ、そんなことないもんっ」
「うぉ、なんで人の思ったことがわかるっ」
「祐一君、口に出してたよっ」
 しまった。
「いやすまん、別にあゆは幼い感じだから服も幼い感じの方が似合うだろうとか、そういうことは全然思ってないから」
「すっごくわざとらしいよっ」
 頬を膨らませるあゆ。そういう仕草はやっぱり幼いって感じがする。
 でも服は──。
 真っ白い服。まばゆいくらいの白。ワンピース、になるのだろうか。いつもはキュロットだから、やけに新鮮に見える。膝下まであるゆったりした感じ服のせいか、やけに大人びた雰囲気だ。
 でも似合っている。似合ってるんだけど……何か……何か足りないような……。
「あゆちゃん、羽出さないの?」
 そうか、羽だ。名雪の指摘で気が付いた。きっとこの服は、羽があることが前提の服なんだろう。
「え、でも……いいの? みんなに知られちゃうよ?」
「ああ。みんなにあゆを紹介する、ってのもパーティの目的だし。今回のパーティの表の主役は真琴だけど、裏の主役はあゆだからな」
 いや、真の主役、かな?
「じゃあ……出すねっ」
 次の瞬間、背中に羽が生えていた。まるで、今まで目に留まっていなかったものが、突然意識できるようになったかのように。
 みんなからどよめきがわき上がる。
「天……使……様?」
「……天使?」
「羽……いいなぁ、羽……」
「おぉ、やはり綺麗だ……」
 なるほど。やっぱりこの服は、羽があっての服だったんだ。まるで白い十字架のような……神秘的って言うかなんていうか。
「あの、もしかして、私の夢に出てきたのは……」
 栞の問いかけに、コクン、と頷いてみせるあゆ。それだけでは足りないと思ったのだろう、名雪が説明を加える。
「えーとね、あゆちゃんは天使で……人に夢を見せることができるんだって」
「じゃあ……私、あゆちゃんが起こした奇跡のお陰で助かったんですね」
「ふぇー、そうだったんですか」
 みんな次々と頭を垂れる。
「違うよっ!」
 ひときわ大きいあゆの声に驚いて、俺たちはあゆのことを見た。
「違うよっ。奇跡はボクが起こしたんじゃないよ」
「でも──」
 誰かが上げた声に首を振り、あゆは続けた。
「ボクに出来るのは、夢を見せることだけだよっ。奇跡なんておこせないよ」
「でもこうしてみんながここにいるのは、あゆが夢の中にでてきたからじゃないのか?」
 俺の言葉にみんな頷く。
「ボクは夢の中でみんなに教えただけだよ。正しい道を」
「み……ち……?」
「奇跡は、みんなが自分で起こしたんだよ」
 そういうとあゆは、俺たちのことを見回していく。
「姉妹の、互いを想う心──」
 姉のことを見上げる栞。妹のことをちらりと見る香里。固く結ばれる手と手。
「親友のことを想う心──」
 顔を赤らめる舞。いつもの笑顔を浮かべる佐祐理さん。そしてかわされる、視線と視線。
「好きな人を想う心──」
 右手にそっと触れる感触。確認するまでもない。俺はその真琴の左手を、しっかりと握ってやる。
「温かく見守る心──」
 今も温かくみんなのことを見てくれている秋子さん。そして名雪。天野もだ。
「そんなたくさんの心が……想いが、奇跡を起こしたんだよ」
 沈黙があたりを支配する。が嫌な感じはしない。みんな思い返しているのだ。あの時を。
 俺もそうだ。みんなが信じあっていたからこそ、奇跡は起きた。そういうことなのだろう。
「すまんが……説明して貰えるかな? さすがにそこまで詳しく知ってる訳じゃないんでな」
 あ、例外がいるのを忘れてた。久瀬は今回の奇跡には直接関係はないんだった。多少居心地悪そうにしている。
「じゃあ先に乾杯しちゃわないか? 話はその後ゆっくり、ってことで」
 珍しく北川がいいフォローをする。……単に早く飲み食いしたい、ってだけかもしれないけど。
「じゃあ、準備はいいか?」
 みんな各々のグラスを手に取る。もちろん中身はジュースとかだけど。そしてこの時のために用意しておいた台詞を、口にした。
「えーと……。みんながここにこうして集まれた奇跡に──乾杯っ」
 そして、パーティが始まった──。

「ふぅ」
 火照った顔に、頬をなでる風が心地よい。
 パーティは大いに盛り上がっている。真琴の狐時代、栞の病気、舞の孤独な戦い、あゆの天使について──。話題は尽きない。
 俺はそんな喧噪をそっと抜け出して、自室のベランダに出ていた。
「あーっ、こんなとこにいたぁ」
「……真琴か」
 背後からかけられた声に、振り向かずに答える。真琴はそのまま俺の横に並ぶと、顔を見上げた。
「どしたのよぅ。パーティ抜け出してっ」
「うん、ちょっとな……」
「なによぅ」
 不満げに口を結ぶ真琴の肩に手を載せ、そっと引き寄せる。
「あ……」
「真琴と二人っきりになりたくてな」
 おずおずと肩に温かいものが載せられる。首筋をくすぐる狐耳の感触が気持ちいい。
「もし真琴が来なかったら、どうするつもりだったのよぅ」
「でも来たじゃないか」
「あぅー、そだけど……」
 そのまましばらく、二人一緒にベランダにたたずむ。微かに聞こえてくるみんなの笑い声が、別世界の出来事のようだ。日が傾き、あたりが赤く染まっていく様を、二人で眺める。
 その赤もそろそろ終わろうかという頃、不意に真琴が口を開いた。
「真琴……ここにいるのよね」
「うん?」
「時々……時々不安になるの。ホントに真琴、ここにいるのかなぁって」
 ……何て答えよう。いい言葉が見つからない。伝えたいことはたくさんあるのに。
 だから、真琴の肩を抱く手を強める。口を開く代わりに。
「祐一……」
 耳元で囁かれた声にドキッとして横を向く。思いがけずに近くで見つめ合う、瞳と瞳。
 真琴の瞳に映る、俺の顔。
「俺は……いつでもいるよ。真琴と一緒に」
 ようやくこれだけ言葉を絞り出せた。
「うんっ」
 嬉しそうに頷く真琴。そして瞳を閉じ、さらに顔を寄せる。俺も目を閉じ、顔を近づけ──。
 ドーンッ!
 足下から伝わってきた衝撃に、思わず身を離す。
「あぅーっ、何ーっ!」
「さ、さぁ?」
 続いて伝わってくるのは……今までにも増して激しいみんなの嬌声。
「……行ってみるか?」
「うん……、あんまりいい予感、しないけど」
「奇遇だな、俺もだ」
 そしてそれは予想を遙かに上回っていた。

 後で聞いた話だが、どうやら俺と真琴が席を外してすぐ、アルコールが姿を現したらしい。
 犯人は……意外にも秋子さん。
「こういう席ですから」
 反対したのは久瀬一人。それも生徒会長として、一応形式だけ、ってことだったようだ。
 何しろ、その久瀬が最初に芸をやりだしたらしい。
「やはりパーティといえば、芸の一つもみせないとな」
 そういうとあゆから羽根を一枚もらい、食事用のナイフで縦に両断してみせたらしい。謎な男である。
 だけど一気に場は盛り上がったみたいだ。
 続いて舞が、空中に舞わせた紙を、ナイフ一本で二枚、四枚と切り裂いて見せると、佐祐理さんがそれを残らず箸で受け止めて見せる。
 そこまで派手ではないけど、目を閉じたまま林檎の皮を剥いてみせる名雪。(もっとも目を閉じていた、というより、寝ていた、らしいけど)
「いつもやってることだから」
 とは説明の時の名雪の話だ。
 他にも色々あったらしい。
 性懲りもなく、つけ耳としっぽを出して、人に着けさせようとする北川。狸の耳としっぽを渡され、絶対似合うからといわれて目を点にする天野。お約束のように、北川をぶっ飛ばす香里。
 などなど──。
 中でも一番派手だったのがあゆらしい。
 栞に、飛べるんですか、と聞かれてその場で飛んで見せたらしい。もっとも勢いが良すぎて、天井に頭をぶつけて墜ちたらしいけど。
「酔ってたからだよっ」
 とは後の言い訳である。けど二階まで響くくらいだから、その勢いもわかるというものだ。
 俺たちが戻ってきたのはその後……。香里と北川の仲を、栞が暴露しようという最中だった。
「そ、そういえばまだ、真琴ちゃん、なにもやってないわね」
 めざとく俺たちが戻ってきたのを見つけた香里が、矛先をこちらに向ける。
 ……まずい。
「やっぱり主役にも、なにかやってもらいたいわよねぇ」
「あぅーっ!」
 絶好の逃げ道にされた。
「あぅーっ、何すればいいのよぅっ」
「なにかこう、パァっと目立つこと……」
「目立つこと……目立つこと……あぅー」
 逃げようにも、みんなの期待に満ちた視線がそれを許さない。
「な、なんか、妖狐の技とかないのか?」
「そんな都合のいいの、ないわよぅ。あぅー」
 数秒うめいた後、真琴は妙に赤い顔で俺の方を振り返った。
 赤い顔?
「あぅ、えと、沢渡真琴っ……えーと……祐一と……キスしますっ」
 え?
 その言葉を理解する前に唇に押し当てられる、柔らかいもの。それが真琴の唇だと理解する前に、すっと離れる。
 一瞬の静寂の後、巻き起こる大歓声。
「あぅー……」
 そのまま俯く真琴。首筋まで真っ赤だ。
 ……そして多分俺も。そりゃあ二人っきりならそれこそ色々やってるけど……。人前でキスするなんて、ねぇ……。
「じゃあ次は、祐一だね」
 くそ、名雪め、余計なことを。それに真琴も。こんなことされちゃあ、普通の宴会芸なんて出来ないじゃないか。
 …………。
 しょうがない、腹をくくろう。いろんな意味で。
「相沢祐一っ」
 みんながさらに期待に満ちた目で俺の方を見る中、真琴の肩を抱き寄せる。
「今ここに、宣言するっ。真琴のことを……一生幸せにする事をっ」
 言ってしまった。本当によかったのかな、一生、なんて事を今から言って。
 でも。
 真琴の嬉しそうな顔を見ると、そんな疑問もあっという間に吹き飛んでいく。真琴のことを優しく抱きしめると、みんなも拍手で祝福してくれる。
 ……やっぱり恥ずかしいな。はやし立てられてるだけ、って気もするけど。
「さあじゃあ、この幸せな二人に改めて──乾杯っ」
 秋子さんの声に答える、乾杯の声。
 パーティはまだまだ終わらない──。


−終−


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