── Interlude 香里

【土曜日・四】

 初出:2001/11/30

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「うー、食べ過ぎました……」
「当たり前よ、あんなにたくさん食べて」
 今日は栞の快気祝いに、家族揃って街のレストランで外食をしたのよ。栞が「たまには外のものを食べてみたいですー」なんていうから、みんなしてその気になって、ね。
 その後、あたしは栞を連れて商店街を歩いてる、ってわけ。栞にとっては珍しいんでしょうね。病気で好きに出歩くこともできなかったし。ま、明らかに食べ過ぎた栞の、腹ごなし、って目的もあるけど。
「だって、珍しいものは食べたくなるじゃないですか」
 真剣な表情で訴えるその様子があまりに微笑ましくて、ついつい苦笑が洩れてしまう。
「うー、笑うなんてひどいです」
「ふふ、ごめんね、栞。でもそんなにいっぺんに食べなくたって大丈夫よ。時間はこれからたくさんあるんだから……」
 これまでは好きなものを食べる事なんて出来なかった栞。
 だけど大丈夫。もう病気は治ったんだし……。
「でも……これからはおごってもらえるかどうか分からないし……」
「……なんでこんなに意地汚い子に育っちゃったのかしら……」
「えぅーっ、そんなこというお姉ちゃん、嫌いですー」
 そういいつつも、楽しそうに笑う栞。あたしの妹。ホントに……一週間前までは想像もできなかった光景だわ。
「あっ、あのぬいぐるみ可愛いですっ」
 立ち並ぶ店の一軒を指さしながら、栞が声を上げる。
「……随分と大きいのね。いくらなの?」
「えーと……五十万だそうです」
「一体誰が買うのかしらね」
「……欲しいです」
「そう。頑張ってお金、稼ぐのね」
「えぅー」
 夕暮れの街を二人で歩きながら、店先をひやかしていく。
 それは……あたしも望んでいた光景だったわ。こうして二人無邪気にはしゃいで……。
 こんな光景が永遠に叶わなくなる。それが嫌だったから……信じたくなかったから、一時は妹なんていない、なんて思おうとして……。馬鹿だったわね、まったく。
「あっ、お姉ちゃん、あれやりましょう!」
「え? あれ……?」
 見るとそこには最近はやりのプリント機があった。あたしはやったことがないけど……。
「早く早くっ」
「ちょ、ちょっと栞、引っ張らなくたって行くわよ」
 まったく強引なんだから。そのまま二人で、機械の前に並ぶ。
「……で、どうするの?」
「お姉ちゃん、知らないんですか?」
「適当にやればなんとかなるわよ」
 そういいつつお金を入れて、ボタンを押す。
「わ、ホントだ、凄いですっ」
「このペンで何か書けるみたいよ」
「あ、私やりますっ!」
「……書くのは文字だけにしといて頂戴ね」
「どういう意味ですかっ?」
「言葉通りよ」
「えぅー、そんなこという──」
「ほら、急がないと時間、ないわよ?」
「わわっ、えーと……」
 とりあえず今日の日付を書いたあと、更に悩む栞。制限時間ぎりぎりになって、さっとペンを走らす。──えっ!
 その瞬間、フラッシュが光った。
「し、栞、それ……」
 あたしらしくもなく狼狽しちゃったわよ、まったく。
「えへへ、ちょっと恥ずかしいですよね」
 そういいつつも栞は嬉しそうにシールを機械から受け取った。
「封印ね」
「えー、もったいないですー……はい、お姉ちゃん」
 はさみで半分切って、渡してくれた。……どうしようかしら、これ。人に見せるにはちょっと気恥ずかしいわね。でも……あたしの心に暖かい何かが広がっていく。……こんな気持ちになれるなんて。前には想像もできなかった。
「栞、ありがとう」
「え? え? 突然どうしたんですか?」
「……なんでもないわよ」
 このお礼、相沢君達にもしないとね。あの真琴って子が還ってこなかったら、栞も還ってこなかったんだろうし。とりあえず家に帰ったら電話ね。
「さ、栞、そろそろ帰るわよ」
「あ、待ってくださいーっ」
 そしてあたし達は家路を辿る。二人で肩を並べて──。


−終−


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