── Interlude あゆ

【土曜日・二】

 初出:2001/11/30

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 駅前の商店街。とってもにぎやかで、とっても楽しげな道を、ボクと名雪さんと真琴ちゃんの三人で歩いてるんだけど……ぜんっぜん、楽しい気分になれないよ……。
「うぐぅ、ボクってそんなに子供っぽいかなぁ」
 ボクの呟きに、真琴ちゃんが「またぁ」って顔をする。そりゃ、さっきからこのことばっかり言ってるけど……でもっ!
「でもあの人達……色々酷いこというんだもんっ」
 ボクだって気にしてるのに……。
「でもあゆ、小さくて可愛いと思──」
「真琴ちゃんっ!」
「あぅーっ」
 ボクの声にピタって耳を伏せる真琴ちゃん。
 うぅ、真琴ちゃんだって子供っぽいのに……。
 そりゃあ体はちょっとだけ、真琴ちゃんの方が大人っぽいみたいだけど……。だってボク、七年間も寝てたんだもん。これじゃあちゃんと成長できなくて当然だよっ。
 当然だけど……当然なんだけど……うぐぅ。
 また落ち込んだボクに、名雪さんが優しく笑いかけてくれた。
「だからこれから服を買いに行くんだよー」
 そうなんだ。これからボク達、服を買いに行くんだよ。ここから電車で三十分のところに、とっても珍しい服屋さんがあるんだって。ふつーに人じゃない人向けなんだって。
 ……ボクみたいな天使も、そこに入るのかなぁ。
「綺麗な服を買えば、きっとあゆちゃんも色っぽく見えるようになるよっ」
「ありがとう名雪さん。……でもそれって、今は色っぽくないって言ってるんじゃ……」
「え、えーと……」
「うぐぅ! 名雪さんロコツに目をそらしたぁっ」
「そ、そんなことないよー。……ほら、たい焼き屋があるよ?」
「えっ!」
 名雪さんの指す先には……わーい、ホントにたい焼き屋さんがあるよっ。
「買ってくるっ!」
「真琴も買うーっ」
 そういって早速二人でたい焼き屋さんに向かって駆けだし──。
「あ、あゆちゃん。……お金、ある?」
 急停止。
 コートのポケットを探して──キュロットのポケットを探して──。もう一回両方とも探して──。
「うぐぅ……財布、ないみたい……」
 うぅ……そりゃあ天使にはお金なんて必要なかったけど……。
「あれ? あゆ、どしたの?」
 そういう真琴ちゃんの手の中には、あつあつでおいしそうなたい焼きが袋にたくさん……。たくさん?
 するとその中の一匹を真琴ちゃんが熱そうにしながら渡してくれたんだ。
「はいっ、あゆちゃん」
「うぐ……いいの?」
「みんなで食べようよぅ。きっとおいしいよ?」
「うん……ありがとっ」
 ありがとう、としか言えなかった。けど……なんか……言葉に言い表せないけど……とっても嬉しかったんだ。
「はいっ、名雪も」
「わぁ、たい焼きなんて久しぶりだよー。ありがとう」
 三人一緒にたい焼きをかじりながら、商店街を歩く。いっつも一人だったから、とっても新鮮だよ。
「あぅーっ、舌やけどしたーっ」
「でも肉まんも熱いよ?」
「あぅー、肉まんは肉まんだから大丈夫なのっ」
 そんな何でもないやりとりが、とっても楽しい。この感じ……あの時と一緒だね。昔……祐一君と一緒に遊んだ、あの七年前の冬と……。
 そんなことを思っていると、突然名雪さんが足を止めたんだよ。
「名雪? どしたの?」
「あ、うん……ちょっと……ね」
 そういいつつも目はどこかよそを向いてて。
「あ……」
 その先には……ベンチが一つ。
 そっか。名雪さんもこのベンチで……。
 この前名雪さんの夢の中に入った時、見えちゃったんだ。落ち込んだ男の子──おさげの女の子──そして、崩れる雪うさぎ──。
 そしてその原因は──。
「名雪さん……ボク……」
「……ちょっと座ろっか」
 そういうとベンチの方に向かって歩き出す。
「うん」
 ボクが夢の中で座っていたベンチ。名雪さんにも思い出深いところだ、って知ったのはつい最近。
 三人で腰を下ろす。ボクの隣に名雪さん。さらにその隣に真琴ちゃん。真琴ちゃんは何がなんだか分かんない、って感じだけど。
「あゆちゃん……」
 一体何をいわれるんだろう。さすがにボクもドキドキする。
「祐一……あのこと、思い出してるのかな?」
「えっ。えーと……ううん、多分まだ……」
「そっか……」
 祐一君の夢にもちょっとだけ入ったことがあるんだけど……あの時のことは全然思い出してないみたい。でも……ボクのこと思い出したから……レンサテキに思い出しても不思議じゃないかも……。
「祐一……思い出さない方がいいのかな、きっと。……思い出したら一番苦しむの、祐一だと思うんだ……」
「名雪さん……強いんだね」
 ボクは心からそう思ったんだ。本当は名雪さんが一番思い出して欲しいはずなのに……。
「そんなこと……ないよ」
 だけど名雪さんの答えはとっても悲しげだった。
「わたしは待つことしか出来なかったから……あゆちゃんと一緒なのかもね」
 そういうと寂しげに笑う。
「あはは……」
 ボクも笑い返したけど……多分名雪さんと同じ表情をしてたんじゃないかな。
「あぅーっ、よくわかんないよぅ」
 真琴ちゃんが困ったような声をあげる。
 真琴ちゃん……。待つことを嫌がって、自分の全てをかけて祐一に会いに来た娘。
 だから……ボクも……多分名雪さんも、真琴ちゃんにはかなわない、って思っちゃうんだよ。
 二人して真琴ちゃんに笑いかける。
「えーと……今度話してあげるね」
「あぅーっ、気になるーっ」
「ごめんね、ちょっと長い話なんだよ」
「急がないと、夕飯に間に合わなくなっちゃうしね」
 ボクはそう言いつつ立ち上がった。
「うーっ、約束だからねっ」
 真琴ちゃんもとりあえずそれで諦めてくれたみたい。
「わっ、あと二分しか時間、ないよー」
 時間を確認した名雪さんが、緊迫感のない叫び声をあげる。
 ……えっ、二分?
 みんな、うなずきあうと駅に向かって駆け出したんだ──。


−終−


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