久瀬君の陰謀(改訂版)

【土曜日・一】

 初出:1999/09/28 Key SS掲示板 No.18899
 改訂:2001/11/18

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『二年生の相沢祐一君、至急生徒会室までお越しください。繰り返します……』
 今日は土曜日。午前中で授業も終わり、帰ろうと席を立つと同時にこんな放送が流れてきた。
「祐一っ、呼び出しだよっ」
 隣の席の名雪が、楽しそうに声をかけてくる。おいおい、これがどういう事態なのか、わかってるのか?
「一体何をやったの、相沢君。生徒会に呼び出されるなんて、よっぽどのことよ」
 さすがに香里は深刻そうな顔で声をかけてきた。よく見ると、クラスの連中もこっちの方を注目している。
「……心当たりはたくさんあるけどな」
 校門で騒ぐこと二回。俺が騒いだんじゃないけど。
 夜の校舎で暴れること一回。俺が暴れたんじゃないけど。
 けど間違いなく俺は関係してるし、生徒会に目を付けられるには十分だ。
「じゃあ俺はもう帰ったと……」
「そのまま退学になるのがおちよ」
 さらに深刻そうな顔で、俺の聞かなかったふり作戦に口をはさむ香里。
「ぐあ、そんな権限が生徒会にあるのか?」
「他はどうか知らないけど、この学校はそうよ」
 ……生徒が生徒を退学にできるって……いいのか? それ?
「祐一、ふぁいとっ、だよ」
「ふぁいとっ、でどうにかなる問題かよ」
「じゃあ、当たって砕けろ、だよ」
「砕けたくない!」
「じゃあ……」
 まだ何か考え込んでいる名雪をおいて、俺は教室を出た。
 生徒会と戦うために。

 久瀬。
 生徒会長の名前だ。一応それくらいは知っている。
「多分この中に、そいつがいるってわけだ」
 実際に口にしていることに気がつき、口を押さえる。幸い、誰にも聞かれなかったらしい。
 単なる扉の前なのだが、妙な威圧感を感じるのは気のせいか。
「失礼します、相沢です」
 意を決して扉を開け、中に入る。
「……君が相沢君か。はじめまして、は違和感があるね。君の噂は色々聞いてるから」
 部屋の中には二人。そのうち一人が俺にそんなことを言ってきた。
 こいつが久瀬か。一目見ただけで、俺はこいつを嫌いになることに決めた。そんな雰囲気の男だ。
 もう一人は後ろを向いて作業をしていて、こっちを振り向く気配もない。
「さて、ここに来てもらった理由だけど、最近の君の素行に関して色々とよくない話を聞いていてね……」
 やはり危惧していたことが当たってしまった。最近の騒動について、その中に俺がいたことを、ことごとく暴露される。
「……とまぁこれだけのことがあると、普通は退学か、よくても無期停学なんだけど……」
「なんだよ、さっさと停学でも退学でもすればいいじゃないか」
「そう焦らないで欲しいね。まず会って欲しい人がいるんだ」
 そして、さっきまで作業をしていたもう一人の男が、ゆっくりと振り向く。
「よぉ、久しぶりだな」
「北川!」
 そこには、富良野で狐を追いかけているはずの北川がいた。
「富良野に行ったんじゃなかったのか?」
「北川君には、急遽戻ってもらったんだよ。重要な情報があるというのでね」
 そういって、ヌタリ、としか表現できないような笑みを、久瀬が浮かべた。
「なんでも相沢君の家に同居している娘、沢渡真琴君だったかな? 彼女は本物の狐娘だそうじゃないか」
 くっ。
 俺は思わず唇を噛んだ。こいつも北川の同族かっ!
「北川君から聞いたよ。奇跡だ、と。お陰で僕も奇跡を信じる気になってきたよ」
 大げさに肩をすくめる。いちいちカンに障るやつだ。
「それで……真琴をどうしようっていうんだ?」
「ふふふ、聞きたいかい」
 北川の目の色が変わっている。イっちゃってるってやつだ。
 そんなこと聞きたくないっ! と突っ込みを心の中でいれが、もちろん聞こえるわけもない。
「何しろ、獣娘は漢の夢! そして裸エプロンは漢の浪漫!! この実現を目論んで、何が悪いというのか、いや、決して悪くない!!!」
「北川……てめえ……」
 想像通りの答えが返って来た。思わず握り拳を固めて、殴りかかろうとする。
 だがそれより早く──。
「北川っ」
 不意に久瀬が北川に声をかける。張りつめた声。北川があわてて振り返る。
「この……バカ弟子がぁ────!」
 バキィ!
 叫び声ととも、壮絶な打撃音が響きわたり、殴り飛ばされる北川。
「し、師匠! 一体何をなさるのですかっ!」
 な、何が起きたんだ? 弟子? 北川が? 師匠? 久瀬が?
 俺の混乱をよそに、二人の会話が続く。
「北川よ、いつもいっているだろう、浪漫とは自然なものこそが一番だと」
「はい、師匠、ですからオレは、本物の狐娘に目を付けて、こうして──」
「北川っ! だーからお前は馬鹿なのだっ!」
 しどろもどろと言い訳する北川に、久瀬の喝が飛ぶ。口調も先ほどとは異なり、説教風になっている。
「よいか、『自然』とは状態のことだ。無理矢理裸エプロンさせられたものが自然な状態だといえるか?」
「た、確かに……。しかしそうすると、師匠は一体何を望んでいるのです?」
「知りたいか?」
 久瀬がヌタリと笑う。いやな笑みだ。
 汗が頬を伝う。
「くっくっく、その狐娘に、この学校に入学してもらうのだ。もちろん、入学金や授業料は、こちらで持とう」
「な……!」
 思わず絶句する。その思いは北川も同じだったようだ。
「師匠、一体それで、どんなことをやろうというんですか!」
「何もしない」
「え?」
「いや、正確には何もする必要はないのだ」
 ますますもって、訳が分からない。入学金や授業料なんて、半端な金額じゃないはずなのに。
 だが、やはり同じ穴のムジナなのであろうか。北川は目を輝かせる。
「分かりました! さすがは師匠!」
「おお、さすがは我が弟子、わかったか!」
 二人の背後から、同じ色のオーラが立ち上るのが見えた気がした。
 浪漫という名のオーラが。
「学校に来るだけで、獣娘に制服!」
「家庭科の授業で、獣娘に制服エプロン!」
「体育の授業で、獣娘にブルマ!」
「水泳の授業で、獣娘にスクール水着!」
「何とすばらしい……」
 恍惚とした表情を浮かべる二人。俺は呆然とするしかなかった。
 ……いや……。
 制服姿で俺にじゃれつく真琴……。
 制服の上にエプロンをつけて、料理に四苦八苦する真琴……。
 ブルマ姿でしっぽをなびかせ、校庭を駆け抜ける真琴……。
 耳についた水をはじかせながら、プールではしゃぐ真琴……。
 頭の中を妄想が駆けめぐる。
 これって……いいかも……。
「……相沢君……相沢君っ!」
「え……あ……」
「君の意見を聞かせて欲しいのだがね」
 そういってまたヌタリとした笑みを浮かべる久瀬。
「俺は……俺は真琴に、学校に来て欲しい……」
「おお、解ってくれるか、我が同志よ!」
 そういって差し伸べられた久瀬の手を、思わず払いのける。
「勘違いするな。俺は獣娘なんかどうでもいい!」
「ほほう、ではなぜ?」
「真琴だからだっ! 真琴に学校に来て欲しい、それだけだ!」
 パチパチパチ──。
 俺のそんな言葉に、しかし拍手が返ってきた。
「それこそが獣娘とのラブラブ……種族を越えた愛! 最高だ」
「ラブラブで、さらに浪漫……これに勝るものがあるだろうか、いやない!」
 二人して妙に盛り上がっている。いや、俺も真琴が学校に通えるようになるのは嬉しいが……。
「でも……その理屈なら、真琴本人の意見も聞いてみないと」
「ああ、そうだね。……いるんだろう、そこに。入ってこいよ」
 不意に北川が、廊下に向かって声をかける。一瞬の間の後、扉が開きぞろぞろと女の子たちが入って来た。
「み、みんな、聞いていたのか」
 そこには、俺の知り合いの女の子たちがいた。名雪、香里、あゆ。そして、真琴。
 多分校門で待っていた真琴とあゆを、名雪と香里が迎えに行ったのだろう。
 一歩前に進み出る真琴。その耳はピンと立ち、強い決意があることを示している。真剣な表情のまま、口を開く。
「祐一、真琴も学校に来たいよ」
「すばらしい、これで決まりだね。ありがとう」
「その代わり、条件があるわ」
「ほう、条件だって?」
 握手でもしようと手を差し伸べた久瀬の顔に、楽しげな表情が浮かぶ。
「いいだろう、言ってみたまえ」
「あゆも、彼女も一緒に学校に通えるようにしてっ」
「え、ボクはいいよ、だってボクは……」
「ふむ……」
 久瀬はあわてる様子のあゆをじっと見つめる。今は羽は出していないのだが……。
「合格だ」
「え、えーと、ボク……? 合格?」
 キョトンとした表情のあゆ。
「君からも何かしら、浪漫を感じる」
「師匠、オレには何も感じませんが……」
「僕を誰だと思っている、北川。浪漫マスターアジアと呼ばれる者だぞ」
 怪しい……限りなく怪しい。その思いは、女性陣も一緒らしい。
「あゆ君といったか。確かに彼女は、見た目は普通の女の子だ」
「少し、幼い感じがしますが……」
「うぐぅ……」
「小学生の男の子のような雰囲気だし」
「うぐぅ!」
「色気もない」
「うぐぅっ!」
「胸もそんなにないし」
「うぐぅぅぅ!」
 いやまぁ確かにそうなんだけど……そこまで言うか、お前ら。
「うぐぅ、ひどいよっ」
「最低、だよ」
「女の敵ね……」
 瞳に涙をため、抗議の声を上げるあゆ。名雪と香里も、二人を非難する表情をしている。
「君たちなんて……」
 不意に羽が広がる。あゆの背に、大きな白い羽が。
「君たちなんてっ!」
 そのまま天井付近までふわっと浮き上がる。初めて見たであろう、久瀬、北川、香里は硬直している。
「だいっきらいだよっ!」
 突然視界が白く染まる!
「ぐあああああ!」
「ぎゃあああああ!」
 あがる悲鳴。何が起きてるんだ?
 不意に視界が元に戻る。そこには何が起きたのか、床に突っ伏して、ピクついている二人。もちろん、久瀬と北川だ。
「い、いったい今のは?」
「必殺技、だよっ」
 再び床に降り立ったあゆが、俺の疑問に答えてくれた。必殺技っていってもなぁ……。とにかく、あゆは出来るだけ怒らせないようにしておこう。うん。
「や、やはり天使、だったの、か。道理で、浪漫のかけらを、感じたはずだ……」
「さ、さすが、師匠、これだけで、正体がわかるとは……」
「ふっ、天使に天罰を食らう、これもまた浪漫……」
 こんな状態になっても、浪漫を忘れない久瀬と北川。その心意気だけは、認めてやろう。
「自業自得、だよ」
「まさに、天罰覿面ね」
「いい気味よっ」
 女性陣の意見は、必ずしもそうではないようだけど。
「さて、問題も片づいたし、帰ろうか」
「賛成ー! 今日こそ、肉まん買ってね、祐一」
「北川君、反省しなさい」
「ほらあゆちゃん、もう泣きやんで。大丈夫だよ」
「うぐぅ、名雪さん、ありがとう……」
 そして、生徒会室を出る。
「来年からの学園生活、楽しみにしているからなぁっ」
 地の底から聞こえてくるようなそんなつぶやきを、みんなあえて無視して。
 少なくとも、来年は暇になることだけはなさそうだ。
 そんな思いが、ふと浮かぶのであった。


−終−


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