── Interlude 久瀬

【金曜日・三】

 初出:2001/11/30

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「それでは次、舞踏会の収支報告について──」
 女性の堅い声が、よどみなく流れてくる。
 あぁ、なんでこんなにつまらないのだろう。
 彼はそんなことを思いながらあくびをかみ殺した。興味なさげに──むろんそれとは気づかれないように──周囲を見渡す。
 彼と共に会議の机を囲んでいるのは、品行方正で通った生徒会役員達。皆学園を正しく運営する、という理念に燃えている。今もそうだ。面白くもない定例会議をくそ真面目に進めている。
 当てが外れた──。それが彼の正直な感想だった。こんな連中からも尊敬されるようになる──もしかしたらこれこそが自分の飢えを満たしてくれることかと思ったのだが……。
「──では会長、これでよろしいですか?」
「あ、うん、そうだね。特に問題はないと思うよ」
 道化だな──。心の中で呟く。自分自身に対して。
 結局生徒会長という役を演じているにすぎないのか。
 こんなはずではなかったのに──。
「では次。二年生の相沢祐一の件について──」
 進行役の女生徒が合図を送ると部屋が暗くなり、スクリーンにスライドが映し出される。
「この生徒が一体どうしたというのかな?」
 映ったのは一人の男子生徒。学食でクラスの友人と昼食を食べている所のようだ。
「はい、最近校内の風紀を乱している筆頭にあげられると思います」
 そういうと次のスライドに切り替わる。校門で少女に抱き付かれているところだ。
「ごらんの様に校外の者を学校に呼び出し、あまつさえ校門で抱き合うなどという破廉恥な行為を人目もはばからずに行うなど、大問題だと思います」
 相変わらず潔癖すぎるな、と声に出さずに呟く。単に飛びつかれているだけじゃないか。それに本人も困った顔をしてるし……。
 おや? これは──。
「この少女は一体何者なんだい?」
「一応調べてあります。名前は沢渡真琴、現在相沢祐一が下宿している水瀬家に、やはり下宿している者のようです」
 ……同居している、ということか? 赤の他人が同じ屋根の下に。まあ学校の外の話だし、人の家の事情に首を突っ込むわけにもいくまい。それより──。
「獣の耳に尻尾とは、随分と奇抜なファッションをしているんだね」
 むしろ彼にはそちらの方が興味があった。
「まぁ人の趣味は様々ですから」
 実に素っ気ない返答。もっともその方が彼には都合が良い。これでじっくりと調べることができる。
「ふむ。しかしこれだけで彼に問題があるとは言えないんじゃないかな?」
「これだけではありません」
「……というと?」
「先日の教室破壊事件なのですが──」
 一同に緊張が走る。昨日の朝、旧校舎にある教室の一つが、中で猛獣でも暴れたかのような凄い状態になっていたのだ。現在犯人は調査中。ただ役員はみな、この学園でそういうことをするのは川澄舞しかいない、と半ば決めてかかっている。ただ、こんな事をするのは人一人では無理だ、というのも確かなのだが──。
「あの件にも、この男が関わっているようなのです」
 確かに何人かいれば、あの惨状も実現できるのかもしれない。しかし──。
「その根拠はなにかな?」
「以前、川澄舞と相沢祐一が昼食を共にしていることが目撃されています。また現場に残された靴跡のサイズが相沢祐一のものと同じでした。さらに一昨日の夜、近くの牛丼屋でテイクアウトした、という情報もあります」
 無理矢理な根拠だな、と彼は心の中で嘲笑った。
「──で、どうしたいんだい?」
「もちろん、彼を呼びだし、事情を聞き出したいのです」
「もし関係があるならば、断固とした処罰を──」
 結局はそれか。彼は周囲に気づかれぬよう溜息をついた。
 川澄舞に直接話を聞く──ということは既に検討、却下されていた。今まで同様、彼女は何も喋らないだろうし、実害がありそうで怖い。もう卒業が近いこともあり、先日の件はなかったことにしてやり過ごすことに決めたのだった。いくら品行方正な役員でも、自分の身は可愛いということか。
 その彼女と相沢祐一が関係あるかもしれない、と言うことの方が、役員にとっては重大な問題である。彼女のような存在を増やすわけにはいかないからだ。芽は早いうちに摘め、ということのようだ。しかしそれは彼にとって困る。それではあの沢渡真琴との繋がりが切れてしまう。
「会長……」
「会長!」
 幾人からか呼ばれるが、彼にとってそれは鬱陶しいだけであった。放っておくように指示を出そうとした……が──。
 まてよ。うまくすると……。
 彼は素早く考えを巡らした。
 使える……かな。
 わざとらしく頭を振ると、彼は仕方なさそうに返答して見せた。
「うん……君たちがそこまでいうのだから何かあるのかもしれないね。わかった。明日、僕が一人で、直接彼と会って話をしてみよう」
 いかにも役員の説得に心を動かされた風を装ってみせる。これぐらい、普段の模範生徒会長ぶりをもってすれば簡単なことだ。
「会長が……ですか?」
 訝しげな声をあげる役員もいた。
「ああ。大勢で取り囲んで話をするというのも萎縮させてしまうかもしれない。明日は会長としてではなく、同じ二年生の久瀬、一個人として会ってみようと思うんだ。その方が彼も腹を割って話してくれるかもしれないからね」
 彼女のこととかね。
 と彼──久瀬は心の中で付け加える。
 だが心の中まで見えない役員は、深く感じ入り久瀬に全てを任せるのであった。
「それではよろしくお願いします」
「うん、任せてくれ」
「では次の議題、部活予算の──」
 司会の女性が会議を進める……が、もう彼は上の空であった。
 彼女が本当の獣娘だっら──。どうするのが一番楽しめそうか──。空想するだけでも心が湧き踊る。
 こうして久瀬の時は動き始めたのであった──。


−終−


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