北川君の野望〈全国版〉(改訂版)

【木曜日】

 初出:1999/08/30 Key SS掲示板 No.13381
 改訂:2001/11/18

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 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「祐一、放課後だよっ。今日はどうするの?」
「栞の見舞いに行くぞ。昨日は顔を出しただけだったしな。香里、構わないか?」
「ええ。もちろんよ。栞も喜ぶわ。昨日も退屈にしてたから」
 そういいつつ嬉しそうに笑う。実にいい笑顔だ。そのまま三人で話しながら、昇降口へと向かう。
「それにしても……北川君どうしたのかしら。昨日も休んだし……」
「さあな」
 俺は素っ気なく答える。
「一昨日のアレが悪かったんじゃねーのか?」
「確かに……ちょっとやりすぎたとは思ったけれど……」
 珍しく香里が反省するような顔で呟く。アレ、とは、往来の真ん中でとんでもないことを叫んだ北川を、俺と香里が成敗した件である。
「ねぇ、何か校門が騒がしいよ」
 昇降口で靴を履き替えていると、なにやら名雪が校門を指さす。何事だろう、と見てみると……追いかけられている女の子と、追いかけている男の子。それぞれの顔を確認した瞬間、俺は走り出していた。
「あぅーっ、祐一っ、助けてーっ!」
「待て待てぇ、狐ちゃーん」
 逃げるのは、俺の大事な狐娘、沢渡真琴。しっぽをらぶりーに振り回しながら、逃げ回っている。
 追いかけるのは、級友、北川潤。ご丁寧に、虫取り網まで振り回している。っていうかなぜ虫取り網?
 周りの生徒は……パフォーマンスか何かとでも思っている様だ。それもそうだろう。ここまでリアリティのない光景なんてそうそうない。
「あぅーっ、祐一ーっ!」
 飛び込んでくる真琴を背後に隠す。
「狐ちゃーん、オレと裸エプロンしようよー」
 真琴にしか目がいってないのか、全然俺のことを見ようとしない北川。
 ──やることは一つ。
「人の女に何やっとるんじゃ、おらぁ!」
 カウンターのヤクザキック。北川の鳩尾にもろに入る。その場で崩れ落ちる北川。周囲からは……なぜか拍手。
「いやはははは、失礼しましたーっ」
 そのままさりげなく北川を引きずって、退場。目指すは校舎裏である。

「さて、どういうことなのか、話を聞かせて貰おうかしら」
 北川の目が覚めるのをまって、尋問が始まった。担当は香里である。名雪は他の人が校舎裏に来ないように見張りをしてる。
 俺は──。
「あぅー、怖かったよぉ……」
「ごめんな、真琴……」
 怯える真琴を慰めるので、精一杯である。だがこの事件の張本人の北川は──。
「すまない」
 と意外にも謙虚に謝りはじめた。
「実はものみの丘で狐を探してたんだ。だけど見つからなかった」
「当然でしょう! そんなこともわからないの?」
「すまない、どうかしてたんだ」
「で、なんで真琴を追いかけてたんだ?」
「みんなに頼みがあって、学校に来たんだが……校門に真琴ちゃんがいるのを見かけたとたん、何もわかんなくなって……」
「あぅーっ、とっても怖かったよぉ」
 その時の恐怖を思い出したのか、再び泣き出す真琴。
 優しく抱きしめ、頭を撫でてやる。
「で、いったい何なのよ、その頼みって」
「オレの知り合いの別荘が北海道の富良野にあるんだが……」
 あ、話が分かった気がする。
「その側に草原があるんだ。そこに……出るんだよ! 狐が!」
 グッ、と拳に力を込める北川。背後にオーラのような物が見えた……気がした。
「これはもうオレに、捕まえてくれてといってるようなものだ!」
 その目は遙か遠くを見つめている。多分、俺達の目も虚ろになってることだろう。
「誰がなんと言おうとオレは行くぞ、富良野へ!」
 『○へー行こう○ンララン♪』
 どこぞのゲームの主題歌が、頭の中をぐるぐると回る。
「そして狐ちゃんをゲットだぜっ」
 『○ケ○ンゲットだぜっ』
 不意に有名なアニメの台詞が、北川の台詞にかぶさる。
「そうすればあとは狐娘になってもらって、あーんなことやこーんなことを……」
 何を想像してるんだか、にやにや笑いを浮かべている北川。
 ……友達、やめようかな……。
「というわけで、金が要るんだ。いくらでもいいから貸してくれっ」
 突然、まじめな顔になって俺の方を向き直る。
「貸せるわけないでしょう!」
 攻撃態勢に入る香里。だがそれを押しとどめる。
「……わかった、二千円しかないが、それでいいか?」
「相沢君!」
「祐一!」
 次々あがる非難の声を無視して、北川に金を渡す。
「サンキュー! この借りはちゃんと返すから」
 そういいつつ、駆け出す北川。きっとすぐにでも北海道に向かうんだろう。
「相沢君、どういうこと?」
「そうよ祐一。あんなのにお金を渡すなんて──」
「まぁ、現実を見てこい、ってことかな」
「え?」
 今度は攻撃対象を俺に定めていた香里が、不意に怪訝な顔をする。俺は真琴の肩に手を回し、抱き寄せる。
「真琴がここにいるのは、奇跡の結果だ。二度と起きるもんじゃないさ」
「祐一……」
「じゃあなんでわざわざお金なんか渡したの?」
「だから、二度と起きないのをその目で確認しろ、ってことさ。そうでもなきゃ、あの熱は冷めないだろうしな」
「そう……よね……奇跡は起きないから奇跡なのよね……」
「北川だってバカじゃないだろ。現実を見ればわかるさ」
 だが突然、見張りから戻ってきた名雪が不吉なことをいう。
「でももしそうだと……また真琴ちゃんのことを狙うってことだよ?」
「ぐあ……それを忘れてた」
「大丈夫よ!」
 真琴本人は全然不安そうな様子はない。
「だって祐一が守ってくれるって言ってくれたもん」
 そのまま抱きついてくる。いや、頼られるのはいいんだけど……。本当に大丈夫なんだろうか。一抹の不安がよぎるのであった。

 翌日……やっぱり北川は学校を休んだ。
「今頃、富良野にいるのかしら」
「だろうな。きっと虫取り網を振り回して、狐ちゃーんとかって走り回ってるんだろう」
「うー、嫌なもの想像しちゃったよー」

 だが、そのころ北川は──。
「あはは、潤お兄ちゃん、こっちだよぉ」
「あはは、まてまてー、うさぎちゃーん」
 なぜか麦畑で、うさぎ耳のカチューシャを着けた女の子と、鬼ごっこをしていたという……。
「こういうのもいいなぁ」


−終−


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