── Interlude 秋子

【水曜日・一】

 初出:2001/11/30

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 バタバタと足音をたてて二人とも玄関に消えました。でもまだ何か言い合ってるみたいです。ここまで声が聞こえますもの。やがてバタン、と音を立てて扉が閉まると、とたんに静かになりました。いつものように時計の大合唱が二階から聞こえますけど。
 あ、いけない、名雪を起こさないと。
 わたしは食器を片づけると、二階へと階段を昇ります。久しぶりですね、わたしが名雪を起こすのは。最近ずっと、祐一さんに任せきりでしたから。
 そういえば……あの子たちが来る前はいつも朝はこんなでしたね。静かなのが嫌い、というわけではないですけれど、それよりにぎやかなのがやっぱり好きです。それが家族の団らんがもたらすものなら、なおさらです。
「名雪、入るわよ」
 一応ノックしてから名雪の部屋に入ります。いっそう大きくなる目覚ましの音。けれど名雪はその中で気持ちよさそうに眠っています。
 ……あら。これじゃあ起きないはずですね。だって、耳栓をして寝てるんですもの。
「名雪……名雪、起きてちょうだい」
 けろぴーを抱きしめて眠る名雪の両耳から黄色い耳栓をはずすと、そっと揺すります。
「うにゅ……あれ……? お母さん?」
 寝ぼけ眼で起きあがる名雪。
「名雪、おはよう」
「おはようございます……わ」
 周囲の時計を見るととたんに目が覚めたようです。──他の人には分からないでしょうけど。
「早くしないと遅刻よ」
 そういって部屋を出ようとしたところを、呼び止められました。
「あっ、お母さん、真琴は──」
 そう言って顔を赤らめます。そんな様子を見て可愛らしい、と思ってしまうのは、やっぱり親馬鹿なんでしょうね。
「真琴はもう、祐一さんと一緒に出かけましたよ」
「うー……そうじゃなくて……」
「それから今日の夕飯はお赤飯ですからね。お祝いよ」
「うんっ!」
 嬉しそうな名雪の顔。それだけで何のことだか解ったようです。ここらへんの勘の鋭さはさすがわたし譲り、といったところでしょうか。

 それにしてもあの時は驚きました。朝起きたらお風呂場で音がするんですもの。何かと思って覗いてみたら真琴が名雪のエプロンを洗っていたんです。しかも裸で。
『あぅーっ、秋子さん……』
 真琴は随分と困った様子でした。でもわたしには見ただけで大体どういうことか想像できてしまいました。だって……まだ身体を洗っていませんでしたし、何より顔が──女の子、から女性になった、とでもいうんでしょうか──変わってましたから。本当に微妙に、ですけど。
 エプロンの洗濯を引き受けつつ話を聞いて──さらに真琴の体も洗ってあげて──やっぱりわたしの
思った通りでした。最後に真琴はしゅんとして頭を下げてきました。
『ごめんなさい……』
『謝ることはないのよ。それは自然なことですものね』
 先日わたしは「まだ早いわよ」と二人にそれとなく釘を刺しましたが、あれは年長者としての義務であり……嫉妬……かしらね。わたしだって名雪の母ですもの。名雪の気持ちに当然気が付いてましたよ。
 でも当の名雪が二人に協力したんですし、それに真琴もわたしの娘のようなものですものね。──耳としっぽがついてますけど。
『ありがとう、秋子さん──』
 真琴は恥ずかしそうに顔を赤らめていましたが、それ以上に誇らしげでした。
 それはいいですけど……今度ちょっと真琴に教えないといけませんね。祐一さんとするのはいいですけど、ちゃんとした知識もないようでしたし──だって……。

「お母さんいってきますー」
 あら、いつのまに考えに耽ってたんでしょう。気が付くと玄関が閉まる音がしました。そこまで気が付かないなんて……わたしも年をとったのかしら──。そんなことを思いながら名雪の部屋を出ました。
 あら? 祐一さんの部屋のドアが閉まっていません。閉め忘れたのでしょうね。ノブを握り──ふと思いついたことがあって、部屋に入ってみました。昨日の夜、あれでしたし──。
 布団を調べたり、タンスを覗いたり──やっぱり。お洗濯しないといけませんね。手早くシーツやパジャマをひとまとめにします。……布団までは染みてないみたいですね。
 今から洗濯すれば夜には間に合うでしょうから……と思いながら、荷物を抱え上げ──あ……昨日の残り香……。

 蘇る──昔の記憶──。あの人との──。
 ──わたしも──もっとあの人と──。
 ────。
 でも──その分あの子たちが幸せになれば……ね。

 さ、早くこれを片づけたらお仕事に行って……今日は早めに切り上げて、お夕飯の支度をしましょう。
 そんなことを思いながらわたしは一階へ向かうのでした。


−終−


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