二人の夜(改訂版)

【火曜日・五】

 初出:1999/08/31 Key SS掲示板 No.13610
 改訂:2001/11/18

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 夜……。風呂にも入ったし、後は寝るだけだというのに、俺は寝付けずにいた。
 確かに今日はいろんなことがあった。真琴のことを北川と香里に説明した。香里から思いがけない独白があった。そして栞の復活。ついでに北川の暴走。
 そして今一番頭を悩ましているのは、どうでもいいような北川の暴走であった。
『獣娘に裸エプロン』
 この単語が頭を離れなかった。普通だったら単語だけで終わるんだろうが……。
 今、家には本物の獣娘がいる。真琴。狐の耳としっぽを持つ少女。想像するなってのが無理な相談だ。
 でも想像するも何も、真琴の裸なんてほとんど見たこと無い。せいぜい、風呂の湯気と、お湯越しだ。想像するにも限界がある。
 結局、もんもんと時を過ごし、気がつくともう日が変わろうとしていた。
「もう寝るかな」
 そのまま部屋の電気を消してベッドに転がり込む。
 ギッ……
 ベッドに入ってから五分もしないうちに、廊下から音が聞こえてきた。
 真琴なのか?
 ギッ……ギッ……クチュンッ!
 あれ、くしゃみなんかしてる。
「あぅー、なんかすーすーするよぉ」
 ? なんだ?
 ぎぃ……とドアが開くと一つの影が室内に滑り込み、ドアを閉める。その時、しっぽを挟まないように注意するのも忘れない。
 やっぱり真琴だ。それにしては……服が変な感じがするけど……。
「祐一……起きてる……?」
 おずおずと声をかけながら、ベッドに近づいてくる。その姿が、窓から入る月明かりに照らされた瞬間、俺は息を呑んでいた。
 急いで起きあがる。
「真琴……その格好……」
 いつものカエルのパジャマなんかじゃない。
 エプロン。パジャマを着けずに、エプロンだけだ。もしかしたら……下着も……?
「えへへ……似合う?」
 その場でクルっと一回転する。俺の疑問は即座に解消された。回った勢いで一瞬離れたエプロンとの隙間から、胸の膨らみがちらっと見える。意外に……大きいんだな……。
 そして月明かりに浮かび上がる白い後ろ姿。エプロンの紐以外は見あたらない。ゆらゆらと揺れるしっぽに隠され、大事な部分は微妙に隠されている。
 見えるよりも……よっぽど色っぽい。北川……お前の言うことは正しかったよ……。
「ねぇ……どう?」
 不安そうな表情。
「あ……ああ……もう一回、廻って見てくれるか」
「え……こう?」
 もう一度、同じ光景が目の前に繰り広げられる。わかったことは……予想以上に肩が細いことと……お尻も小さいこと……。
「あぅっ!」
 突然悲鳴を上げる。床に放っておいた雑誌に、足を引っかけたらしい。そのまま俺の方に倒れ込んでくる。
 え?
 気がついたら俺は、真琴のことを抱きしめていた。顔の下に真琴の頭。狐の耳が動いているのが見える。下の方では、しっぽが所在なげに揺れている。いつも見慣れているはずなのに……月明かりの下で見るとやけに色っぽい。
 いい匂いが立ち昇ってくる。シャンプーと……ボディーソープと……女の子の……甘い香り……。
 肩に回した右手は……真琴の素肌を掴んでいる。背中に回した左手は……真琴の素肌を支えている。すべすべして……それでいてしっとりした……柔らかさ。微妙に汗ばんでいるのは……それとも俺の手の方か……。
 そして体全体に伝わってくる……暖かさ。人の体の暖かさって……こんなに気持ちいいんだ……。
 このままベッドに押し倒したくなる衝動と、必死に戦う。ダメだ! このままでは本能を抑えきれない!
「はは、真琴、ダメだなぁ、いきなり転ぶなんで……」
 自分でもわざとらしいと思う声を上げ、真琴を立ち上がらせようとする。
 不意に顔をあげる真琴。赤らんだ顔。
 瞳と瞳が間近で見つめ合う。その瞳に写るのは互いの顔。間抜けな顔をしている俺。
 安心しきった微笑みを浮かべる真琴。そして瞳を閉じ……。
「祐一……優しくしてね……」
 体の力を抜き……俺の方にもたれ掛かってくる……。俺はそのまま真琴をベッドに横たえ……。


 後はほとんど憶えていない。
 ただ憶えているのは……涙。
「あぅっ!」
「ごめん、痛かったか?」
「ううん……嬉しいの……これで体も、祐一と一緒だから……」
 愛おしい想いが体の底からわき上がり、出来る限り優しく真琴を抱きしめる。そして耳元で囁く。
「これからは……ずっと一緒だ。何があろうとも……何が起ころうとも……」
「うん……祐一……あぅ……」
 そして……。


『朝〜、朝だよ〜』
 カチッ!
 布団から手を伸ばして、枕元の目覚ましをオフにする。反対の手で真琴のことを探す……が、いない。
「夢……だったのかな」
 それにしてはやけに疲れている感じがする。……それだけ本格的な夢だったのかな。
 何はともあれ今は時間がない。今日も学校だ。急いで制服に着替えると隣室のドアを叩き、名雪をたたき起こす。……起きないな。今日はやけに手強い。起こすのを諦め、食卓に向かう。
「おはようございます」
 台所で朝食の準備をしている秋子さんの背中に挨拶をしながら、自分の席に座る。
「よう、おはよう、真琴」
 正面の席には既に真琴が座っている。……様子がヘンだ。顔を真っ赤にして俯いている……。
「おいどうした? 熱でも……」
「あぅー……」
「おはようございます、祐一さん、違いますよ」
 そういいながらコーヒーを目の前に置いてくれる秋子さん。挽きたての香りのするカップを口元に運びながら、秋子さんに問いかけた。
「え? どういうことなんです」
 秋子さんはいつもの笑みを浮かべると、唐突に話題を変える。
「名雪はやっぱりまだ寝ていますか?」
「え、ええ、今日はやけに手強くて」
「そうでしょうね、寝るのもずいぶん遅かったようですから」
「え、どうして知ってるんですか」
 すると悪戯っぽい微笑みを浮かべて答えてくれた。
「隣の部屋からあんな声が聞こえてきたら、普通眠れませんよ」
 ブッ!
 思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。やっぱり夢じゃなかったんだ……。
 ちらっと横目で真琴を見る。同じように横目で俺を見ようとした真琴の視線と偶然ぶつかった。慌てて、目をそらしてしまう。きっと俺の顔も、真琴と同じように真っ赤になってるんだろう。
 そんな俺達を見て、楽しそうに秋子さんは言葉を続ける。
「名雪は真琴にエプロンまで貸したんですから、自業自得ですね」
 ぐあ……そうだったのか……。
「まあ、遅かれ早かれこうなるとは思っていましたし、それはいいんですけど……」
「…………」
「あぅー」
「初日から五回は多すぎですよ」
「ぐあ」
「ぁぅー……」
 しっかり回数までばれてる。
「お疲れのようですから……今日はこのジャムをどうぞ」
 秋子さんが運んできてくれた俺の朝食のパンには、例のオレンジ色のジャムがたっぷり塗ってある。
「精力増強にいいのよ」
 冗談なのか本気なのか、そう言ってにっこりと微笑む秋子さん。しかし……このジャムを食べるわけには……。
「あ、お、俺今日日直だから、早く行かなきゃっ!」
「あぅーっ、真琴も散歩ーっ!」
 二人して玄関に突進する。
「今日の夕飯はお赤飯ですからね」
 後ろからそんな声までかかる。振り切るように、玄関で靴を履き替える。
「あぅーっ」
 途中でバランスを崩した真琴を支えてやる。真琴も嬉しそうにしがみつく。
「えへへ、祐一、ありがとう」
「いつだって支えてやるよ」
「真琴だって、祐一のこと支えるもん」
 二人して、嬉しそうに頷きあう。そして、二人して朝日の中に飛び出した。
 二人一緒に。


−終−


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