北川君の野望(改訂版)

【火曜日・三】

 初出:1999/08/09 Key SS掲示板 No.9074
 改訂:2001/11/18

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「それにしてもよかったなぁ、栞の目が覚めて」
「ほんと、これも全部北川君のお陰よ」
「そんなことないさ。美坂の、栞ちゃんを思う気持ちが奇跡をおこしたのさ」
 香里達の両親と入れ替わりに病院を抜け出した俺たちは、先ほどの興奮に酔いしれながら道を歩いていた。
 なにしろ奇跡が起きる瞬間をこの目で見たのだから!
 そのきっかけになった北川のことを、みんなでもてはやしながら家路をたどっていると、当の北川から声をかけられた。
「なぁ相沢、ちょっといいか?」
「なんだ。金ならないぞ。帰りに肉まんを買うんだからな」
「肉まん食べたーい」
「違う、金の事じゃない」
「あたしに出来ることなら、手伝うわよ」
「あ、わたしも手伝うよ」
「申し出は嬉しいけど、これは相沢じゃなきゃ駄目なんだ」
 そして真剣な目で俺のことを見る。
「一つ、頼みがあるんだ」
 俺も真剣な目で北川のことを見る。
「ああ、無茶な事じゃなきゃ、一秒で了承してやろう」
 なにしろ、北川が見舞いに来るって言い出さなきゃ、栞は戻って来れなかったんだからな。俺の中で北川の評価は二段階ほどあがっている。そんなヤツの頼みだ、無下には出来ない。
「他でもない、頼みってのは……」
 なぜか手が汗ばんでいる。ゴクっと咽を鳴らしたのは誰だろう──。

「真琴ちゃんを一日貸してくれっ!」

「却下」
 〇・一秒もかからなかった。
 思わず真琴を腕の中に引き寄せる。
「祐一……」
「大丈夫だ、あんなやつの好きにはさせない」
 そのまま頭を撫でてやりながら、俺は北川のことを立派に思ったことを後悔し始めていた。それは他の面々も同意のようだ。
「はぁ。北川君の事を信じたあたしが馬鹿だったわ」
「北川君……不潔だよ……」
「待て、違うんだ、決してそんなつもりじゃない!」
「じゃあどういうつもりだっていうのよ」
「それは……」
 苦渋に満ちた北川の顔。よっぽどヤバイことなのか?
「それは?」

「オレは……オレは獣娘(けものむしゅめ)が好きなんだぁ!」

「……さ、もうすぐ夜だし、帰ろう」
「……あぅ、コンビニで、肉まん買ってね」
「……ねえ香里、『けものむしゅめ』って、何?」
「……言葉通りよ」
「おまえらぁ! 何事も無かったふりして、帰ろうとするなぁ!」
 あ、泣いてる。
「だって……ねぇ」
「少なくとも、普通の趣味じゃないぞ」
「可愛いとは思うよ。でも真琴を連れてくのは間違ってるよ」
「おとなしく付け耳と付け尻尾を買ってきて、香里にでも着けてもらえ」
「ちょ……! なんであたしなの!」
「さっき自分に出来そうなことは手伝う、って言ってたじゃないか」
 とたんに北川の顔が輝く。
「そうか! こんな事もあろうかと、密かに買っておいたんだ」
 嬉々として制服のポケットから何か取り出す。
 豹柄の、耳と尻尾。豹……なんだろうな、やっぱり。
「サイズもぴったりのはずだぞ」
「……それはいいけどよ、何でこんなの持ってるんだよ」
「たしなみだよ、たしなみ。ほら、ちゃんと水瀬さんの分もあるぞ」
 そして別のポケットからも、何か取り出す。黒っぽい、耳と尻尾。猫……なのかな?
「さ、着けてみてくれ」
「もう、しょうがないわね」
 意外に潔いな。
「わーい、ねこーねこー」
 猫関係だったらなんでもいいのか、お前は。
 ちなみに真琴は展開について来れず、俺に抱きついたままだ。
「ほら、どう?」
 ? やけに嬉しそうだな、香里。
 なるほど、尖った耳に、ちょっと長めの尻尾。香里のイメージによく合っている。そして名雪は……。
「うにゃー」
 既に猫と化してるよ、こっちは……。路上だってのに丸くなってるし。でも違和感ない。似合ってるな。
 しかしこの二人を見た北川は、なぜか暗い顔をしている。
「ダメだ……やっぱりダメだ!」
「なによ! せっかくこんな恥ずかしい格好してるのに!」
「ふぎぃー!」
「いや……確かに似合ってるよ。何しろオレが選んだんだからな」
「じゃあなんで……」
「アレを見ろ!」
 ビシっと指した指は、真琴の方を向いている。
 怯えているのか、耳を伏せ、しっぽも丸まっている。
「あくまでも髪の毛と自然に絡み合って見える耳! 微妙な感情を繊細に表現するしっぽ! これは作り物なんかじゃダメなんだ!」
 みんな圧倒されている。……唖然としているのかもしれない。
「オレの野望、これを果たすにはやっぱり本物の獣娘じゃないとダメなんだ!」
「……一応聞いてやろう。その野望って、なんだ?」
「ふふふ、聞いて驚け。それはな……」
 なぜか手が汗ばんでいる。ゴクっと咽を鳴らしたのは誰だろう──。

「獣娘に、裸エプロンじゃああああぁ!」

 ズドム!
 間髪を入れず、俺の見よう見まね崩拳が炸裂する。
 バキ!
 吹き飛ぶ間すら与えず、香里のハイキックが延髄に炸裂する。
 そして、静寂。
「……さ、もうすぐ夜だし、帰ろう」
「……あぅ、コンビニで、肉まん買ってね」
「……ねえ香里、『はだかえぷろん』って、にゃに?」
「……言葉通りよ」
「……オレは……オレはあきらめないぞ……」
 微かに聞こえる呟きをあえて無視して、俺達は帰路につくのであった。
 それから数日、北川は学校を休んだ。そのかわり、ものみの丘走り回る、虫取り網をもった少年の噂が学校に流れるのであった。
「狐ちゃーん、出ておいでー」


−終−


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