── Interlude 栞

【火曜日・二】

 初出:2001/11/30

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 夢。
 夢を見ています。
 それはごく普通の日常。
 お姉ちゃんに起こされて。
 お姉ちゃんと一緒に学校にいって。
 お姉ちゃんと中庭でお弁当を食べて。
 お姉ちゃんと商店街に寄って。
 お姉ちゃんに勉強を教わって。
 お姉ちゃんに夜更かしを叱られて。
 他愛も無い日常です。
 でも、私にはそんな日常も過ごすことは出来ませんでした。
 奇跡は……起きなかったから。
 だからせめて夢の中では、そんな日々を過ごしたいじゃないですか。
「本当にそれでいいの?」
 だって仕方ないじゃないですか。
「もう一度頑張ろうよ」
 無理ですよ。奇跡は、起きないから奇跡なんですよ。
 それに……。お姉ちゃんに嫌われてしまいました。お姉ちゃんに嫌われた日常なんて、意味ありません。
「香里さん、悲しんでるよ」
 嘘……ですよ、そんなの。
「香里さん、泣いてるよ」
 そんなこという人嫌いですっ。
「香里さん、後悔してるよ」
 …………。
「香里さん、願ってるよ。栞ちゃんが帰ってくるのを」
 不意にある光景が見えてきました。
 白い部屋……病室。
 ベッドに寝ているのは、私みたいです。ずいぶんと痩せてしまいました。
 そしてベッドの周りに立つ人たち。三人は初めてですが、後の二人は知っています。
 祐一さん……。
 あの出会いがなかったら、手術から逃げていたかもしれません。
 そして……お姉ちゃん──。私の大好きなお姉ちゃん。
 本当に……本当に嫌われてないんでしょうか。
『栞……帰ってきて』
 わ、お姉ちゃんの声が聞こえます。でも、口は動いていません。きっと夢だからですね。
『あたし……栞みたいに強くないから……栞が生きられないって事から逃げてしまった。栞を傷つけると知りながら……逃げてしまった。
 謝るから……謝りたいから……帰ってきて。あたしのこと、どんなに嫌いになってもいいから……帰ってきて……。
 あたし、あなたのことが本当に好きなんだから……』
 お姉ちゃん……。
 嫌いになれるわけなんて、ないじゃないですか。
「ね、本当でしょ?」
 帰りたい……お姉ちゃんのところに……。
 私もお姉ちゃんが大好きですって言いたいです。
「じゃあ、帰ろっ」
 突然あたりが白く包まれました。何も見えません。
 どうすればいいのでしょう。
「とにかく帰ることだけを考えて。そうすれば大丈夫だよ」
 帰る……帰りたい……お姉ちゃんのところへ。
「うん、その調子だよ」
 その前に教えてください。あなたは一体誰なんですか。
「ボクは……秘密だよっ」
 一瞬目の前に広がる、羽のイメージ。天使様のような……。
「じゃあね。……それから祐一君によろしくっ」
 え、祐一さんに? どういうことですか?
 ……しばらく待ってみても答えはありません。もういなくなってしまったようです。
 でもとにかく、帰ることを考えることにしました。それが私にできるすべてのことですから。
 帰る……お姉ちゃんのところに……。一瞬とも永遠とも思える時間、ひたすら祈りました。
 すると突然、一切の明かりが消え、真っ暗になりました。わ、どうしたんでしょう。
 何も見えません。けどその代わり、声が聞こえました。
「……栞、また明日来るからね」
 お姉ちゃん!
 そちらを見ようとしました……が目が開きません。
 声をあげようとしました……が口が開きません。
 伝えられない! 私はここにいるのにっ!
 その時。私の手に何かが触れました。何かはふわふわしたもの。私は全身全霊を込めてそれを握ろうとしました。悲しいほど少ししか指は動かず──。
「あぅーっ!」
「どうした、真琴」
「何かにしっぽが引っかかって……あーっ!」
 でもそれで十分でした。
 こうして私は再びこの日常へと帰ってこれたのです。お姉ちゃんのいる、日常へと……。


−終−


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