── Interlude 美汐

【月曜日・二】

 初出:2001/11/30

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 遙か西方の山脈にかかる夕日が辺りを赤く染め始めています。周りの草を揺らす風も、徐々に冷たくなってきました。
 どうしましょう。
 私は困っていました。しかしこのままでは埒があきません。遠慮がちに二人に声をかけます。もうこれで何度目でしょうか。
「相沢さん……真琴……」
 しかし二人にはその小さな声が届いた様子もなく、先ほどと同じ姿勢を崩しません。
 真琴はその顔を相沢さんの胸に埋め、相沢さんは真琴の髪を撫で……。二人とも堅く抱擁したままなのです。
 ですがそれもある意味当然のことでしょう。二人は奇跡の再会を果たしたのですから。

 昨夜、夢を見ました。不思議な夢。ありえない夢。もちろん夢は夢です。ですが時に夢は夢でなくなります。そんな想いがどこかにあったからでしょうか。学校からの帰り、私は相沢さんにその夢のことをそれとなく話してみました。
『でも、あの丘に住む狐が、みんな不思議な力を持ってるのだとしたら……。
 たくさん集まれば、とんでもない奇跡を起こせる、ということなのでしょうね』
 それを聞いた相沢さんは、私を置き去りにすると駆け出してしまいました。きっと相沢さんにも何かしらの予兆があったのでしょう。
 私も私なりのペースで相沢さんの後を追うことにしました。目的地は──ものみの丘。私と相沢さん、二人が共有した思い出の場所。何か起こるとすれば、ここしかありません。
 そして願いは果たされました。私がようやくの思いで丘にたどり着くと、そこでは相沢さんと真琴が夕日を背景に抱き合っていたのです。オレンジ色に染まる二人の恋人達。しばらくその光景に見とれていました。
 それから周りを見て回ることにしました。二人の姿を見ているのも何か悪い気がしましたし、なにより他に誰かいないかを調べたかったからです。ここはものみの丘。あの子ももしかしたら……という思いがあったからです。けれど私と相沢さん達の他にこの丘にいるのは、ただ一匹の猫だけでした。正直、うらやましい、という思いも少しはありましたが、でもそれは落胆するほどのことでもありませんでした。真琴が還ってきたということは私にとっても喜ばしいことでしたし、これから先、あの子も還ってこれる可能性がある、ということですから。

 それから十分。二人はまだ抱擁を解きません。最初は二人の足下で鳴いていた猫も、今ではふてくされたように転がっています。
「お前も私同様、お邪魔みたいですね」
「うにゃぁ」
 いつものように私の問いかけに答える猫。不思議なことですがこの猫は、最近私の家に住み着いている猫のようでした。もっとも、よく居なくなるし自由を束縛するのは嫌だったので、名前は付けていませんでしたが。
「じゃあ……帰りましょうか」
「にゃっ」
 解ったかのような鳴き声をあげる猫をそっと抱き上げると、私は二人に背を向けました。目指すのは……相沢さんの、そして真琴の帰るところ──水瀬家。
 ……そうですね、帰りにクラッカーでも買っていって、みんなで出迎えてあげましょう。きっと二人とも驚くでしょうね。真琴は肉まんが好きなのだそうですから、たくさん用意してあげて──。
 私は久しぶりにわくわくとする気持ちを楽しみながら、丘を後にするのでした──。


−終−


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