冷めた飯でも焦げた魚でも

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このSSの原案は葵陣さんです。感謝。


    冷めた飯でも焦げた魚でも
        by Fangoln


「お疲れさまでしたーっ」
「ああ、お疲れ様」

 店長に挨拶してバイト先を出ると、外はもう一面の星空。夏至が近いとはいえ、
八時じゃこんなもんか。

「さ、急いで帰るか……待ってることだろうしな」

 あいつのことを考えると、自分でも頬がゆるむのがわかる。
 今俺は舞と同居してる。二人っきりで。


 あの事件……舞と魔物の事があってから、もう一年が過ぎている。
 舞と佐祐理さんが学校を卒業した後、俺は「約束」通り二人と一緒に暮らすよう
になった。
 周囲の反対とか色々あったけど、三人で説得して回ってなんとか認めてもらった
んだ。……秋子さんが後ろ添えしてくれたからかもしれないけど。
 その後俺は猛烈に勉強し、なんとか二人と同じ大学に受かった。これも二人が指
導してくれたお陰だ。
 だけど今、佐祐理さんはいない。海外に留学している。これも色々と騒動があっ
たんだけど……。
 とにかくそんなわけで、俺は舞と二人っきりで暮らしている。
 佐祐理さんと一緒に三人で暮らしていた時もそれはそれで楽しかったけど、舞と
二人っきりというのもそれはそれでいいものだ。
 こうして二人で暮らしていると、やっぱり俺は舞のことが好き――愛しているん
だ、ということがよく分かる。


 バイト先から徒歩五分のアパート。決してマンションなんかとは呼べないここが、
俺達の住んでいるところだ。
 カンカン、と音をさせ金属の階段を登る。
 あの時の「約束」通り、食事も当番制で作っている。それは佐祐理さんがいなく
なった今も変わらない。
 今日の夕飯は舞の番だ。俺たちの部屋に近づくと魚が焼ける香ばしい匂いが漂っ
てくる。どうやら夕飯は焼き魚らしい。
 舞が和食好きなため、うちの食事は必然的に和食が多くなる。でも、最初に作り
方を覚えてた料理は牛丼だったけど。

「ただいまー」

 立て付けの悪い玄関を開け中に入る。
 ……あれ? 舞がいない。いつもだったら足音で気が付いて玄関まで出迎えてく
れるのに……。

「おーい、舞?」

 適当に靴を脱ぐと台所に向かう。ぼろいアパートだけど、二部屋と台所まである。
これも舞との「約束」からだ。
 台所を覗く。いない……? いや!

「! 舞っ!」

 持っていた荷物を放りだしてあわてて舞の側に駆け寄る。
 舞は……台所でうずくまっていた。

「ど、どうした、舞」

 顔は苦痛に歪み、脂汗まで浮いている。どうしたっていうんだ……。
 いつものトレーナとジーパンに、うさぎさんのエプロンという格好。調理中に何
かしらのアクシデントがあったとしか考えられない。

「どっか痛いのか?」

 コクン、と頷く。

「どこが痛い? 包丁でどこか切ったか?」

 フルフル、と首を振る。

「じゃあお腹が痛いとか……」
「……違う」

 小声で呟くように答える舞。普段と変わらない声音に少し安心する。

「……小指」
「……え?」
「……小指……ぶつけた……」

 そういいつつ指差す先は……柱。
 見ると左足の小指が少し赤くなっている。

「……ぶつけたの?」
「……ぶつけた……痛かった……」
「……ぷっ」

 思わず吹き出してしまった。大げさに心配した俺が馬鹿みたいだ。

「笑うな」

 ビシっとチョップが入る。

「あはは、すまんすまん。いやー、舞でもこういう事、あるんだなぁ」
「祐一が帰ってきたから急いで玄関に行こうとしたら……」
「別に急がなくてもいいのに」
「……少しでも早く会いたかった」
「あーえーと……」

 思わぬ不意打ちに頬が赤くなるのが自分でも分かった。どうも俺は舞のこういう
直接的な感情表現に弱い。照れ隠しに舞のことを抱きしめる。

「祐一……」

 一瞬身体を堅くしたが、すっと力を抜くとそのしなやかな身体を俺に預けてくれ
た。
 首筋に当たる吐息がなんというか……気持ちいい。

「舞……」

 声をかけると顔を上に向ける。至近距離で見つめ合う瞳と瞳。
 そのまま一気に――

「変な匂いがする」

 その瞬間、舞と距離を取ると慌てて自分の服の匂いをかぐ。えっ、バイト中に何
かこぼしたか?

「祐一じゃない」
「……そういえば何か焦げ臭……あーっ!」

 慌ててガスコンロの火を止め蓋を開ける。
 中を二人してのぞき込むと……。

「……真っ黒」
「あーあ、こりゃあ手遅れかなぁ」

 そういいつつも、とりあえず皿に移してやる。元の種類が分からないほど黒くなっ
てしまった魚がそこにいた。
 その固まりを指先でツンツンと突っつきながら舞が俺を見る。

「……食べるの?」
「ああ、冷めた飯でも焦げた魚でも食べてやるぞ」

 そう。「約束」したから。

「舞の作ったものならなんだって食べるぞ」
「……ありがとう」

 僅かに頬を染める舞。そんなちょっとした様子が……とても嬉しい。

「さ、後の準備は俺がやるから舞は座ってて」

 とはいっても、もう準備はほとんど整っている。
 この黒い物体を食卓に運び――和式に卓袱台を使ってる――後は舞を連れて行く
だけ。
 俺はふと悪戯心を起こし、舞の側によると急に抱き上げた。俗に言うお姫様抱っ
こというやつだ。
 ポカっ
 その体勢から器用にチョップを繰り出す舞。それに構わず重々しい口調で告げる。

「お姫様、食事にお連れしますぞ」

 ポカポカっ!
 ……今度のはちょっと痛かった。

「何だよ舞、こういうのは嫌いか?」

 すると舞は振り上げていた手を下ろし、顔を真っ赤に染め小さな声で呟く。

「嫌いじゃない……」

 そして目を閉じると、頬を俺の胸に擦りつけ、繰り返す。

「嫌いじゃ……ない……」

 甘く、甘く、まるでせがむかのように。
 そんな甘美な誘惑に耐えられるわけがなかった。

「えーと……もう少しご飯食べるの遅くなってもいいか?」

 言わんとするところが解ったのだろう。
 両腕を俺の首に回し、口を耳の側まで近づけると熱くささやいた。

「……はちみつくまさん」

 そして俺は舞を食卓とは別の所に運んで――


 ……これが最近の俺達の暮らしである。
 いつまでもこんな穏やかな暮らしを続けたい……。
 それが俺と舞の心からの願いである。


〜終わり〜


後書き

 ども、ファンゴルンです。

 この話は、よく一緒に遊んでいるバトルワンさんがまいけっとに参加するというので、書き上げた作品です。
 結局本は無料配布になったので、ネットでの公開をすることとなりました。

 書くに当たって、舞属性の葵陣さんに原案を頂戴しました。魚が焦げるところ云々がそれです。

 そこから一気にらぶらぶ路線につっこんでしまったのは……僕の所為です。ごめんなさい。
 でも……結構自分で萌えてたり(爆)

 ではでは。


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