妊娠したって本当ですか?
〜しっぽ真琴シリーズ外伝〜

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 それは、いつもの休日。水瀬家の朝食時……。

「……うっ……うぅぅぅぅ……」

 ――バタバタッ――

「お、おい。どうした、真琴」
「なんか、気持ち悪そうだったよ。大丈夫かな……」

 全然大丈夫じゃなさそうだったぞ。
 なんか、トイレに駆け込んでったけど……急にどうしたんだ?

 ――ザァァァァァ――

「ゲホッ……ゲホッ……」
「おい、大丈夫か? なんか悪いものでも食ったのか?」
「ちっ……ちがうわよ……。ハァ……ハァ……。全部吐いちゃったから気持ち悪
い……」
「全部って……さっき少しつまんだお菓子か? 一体、どうしたんだ? さっきま
で何ともなかっただろ?」
「わかんない……。なんか、こないだから少しだるかったけど……。 ごはんの匂
いを嗅いだら急に……」

 なんだそりゃ? ごはんの匂いで……?

「なぁ、最近少しだるいって……他にはなんか変わったことないか?」
「他には……。あぅ……最近……あの日が……遅れてるとか……。あぅ……まさか
本当に……」

 …はい? あの日? 真琴のやつ、顔を真っ赤にしてるけど……?
 それに、何が本当になんだ?
 とか思っていると、後ろにいた秋子さんが……。

「真琴……やっぱり……」

 あの……やっぱりって、真琴が一体どうしたっていうんですか?

「あぅーっ……どうしよ……。本当に赤ちゃんができてたら」

 ……その後、数秒ほど、俺とあゆは固まってしまった。





 〜〜〜妊娠したって本当ですか?〜〜〜
                    by Sou Nekogami




 所変わって、リビング……。
 起き抜けの名雪が加わって、四人に重たい空気が流れて……なかった。

「……え……と……真琴が妊娠……?」
「……あぅ……」
「そうじゃないかっていう、可能性ですよ」

 あの…そういう事をさらっと言わないでくださいよ、秋子さん。

「でも、祐一と真琴の子供なら絶対可愛いって」

 だから、まだ決定じゃないんだよ、名雪。
 二人とも頼むから、そんなことしれっと言わないでくれ。
 ちなみにあゆは、さっきからうつむいて黙り込んだままだ。やっぱりお子様には
この話はきつかったか。

「うぐぅ……お子様じゃないよぉ〜……」

 なんか言ってるが、今は無視しよう。

「……祐一はイヤなの? 真琴がこの子産むのが」
「だぁぁぁ〜っ! まだ、妊娠たって決まってないだろ!」
「あぅーっ……、祐一はやっぱりイヤなんだ〜……」
「だから違うっての!」

 なんか、三人の視線が痛いし……。俺が一体何をした〜っ!?
 ………いや、なんかしたからこんなことになってるんだけどな。

「でも、祐一。その……真琴と……するとき……避妊とかって……あの……」

 それを聞く名雪の顔は真っ赤だった。
 というより、秋子さん以外は真っ赤になっていたというか……。

「いや……あの……一回もした覚えが……」
「そうみたいね。真琴から聞いたわ」

 だから、そういう事をしれっと言わないでくださいってば、秋子さん。
 ……ん? 真琴から聞いた?

「真琴……。お前、なんだって秋子さんにそんなことを?」
「あうーっ……、なんだか……その……女の子の日が来ないから……、秋子さんに
少し相談したら……それ聞かれて……ひょっとしたら……って」

 そう言う真琴の顔がどんどん赤くなっていく。というより、聞いてる俺の顔も絶
対に赤くなってるぞ。

「でも、どうしようか。とりあえず、検査薬を買ってきて確かめるとして……。本
当に妊娠してたら、病院とかどうしようか」
「あぅーっ……真琴、病院行けるの?」

 そう、それが問題なんだよな。 半分狐の真琴には戸籍がない。
 学校は久瀬の力でどうにかなったけど、病院とかはなぁ。
 保険証とかなくて、検査なんかで診てくれるかなぁ……。

「まぁ、そこらへんはその時考えればいいさ。それより、もし本当だとして……」
「あぅ? どうしたの? 祐一」
「いや……。お前、半分狐なのに、よく俺との間で妊娠できたなって……」

 ――バシィィン!!――

「祐一のバカァ〜〜〜!!!」

 ――ダダダダダダッ――

「……イタタタタ……。本気で叩く事はないだろ。ほんの冗談なのに……」
「今のは祐一が悪い」
「うん。ちょっと可愛そうだよ。真琴ちゃん」
「そうね。少しデリカシーが足りないかしらね」

 ぐぁ……みんなして俺を責めるか。
 いや、確かに今のは『本当に俺の子か?』って聞くのと同じくらいヤバいセリフ
だったかもしれないけど……。



 −−−真琴(祐一)の部屋−−−


 なによ、なによ、祐一なんて。どうせ真琴は狐よ。人間じゃないわよ。……やっ
ぱり、本当の人間の方がいいのかな……?

「あ〜もう。こんなことで悩むなんて、あたしらしくない!」

 そうよ。半分狐だろうがなんだろうが、真琴は祐一に『一生幸せにする』ってみ
んなの前で言われたんだから。大丈夫よ。

「ハァ……でも……祐一との子供か……」

 でも、考えてみると不安なことばっかりなんだよね……。
 真琴は戸籍がないから……赤ちゃんの戸籍はどうなるんだろ……?
 ううん。それより、どんな姿の子なの? やっぱり真琴と同じように狐の耳と尻尾
がついてるの? だとしたら……。

 ――ガシャッ――

「何、考え込んでんだ? お前らしくない……」
「いいでしょ、なんでも。祐一が、やっぱり真琴が狐だからイヤだったんだってこ
とよ」
「あのなぁ〜……、さっきのは悪かったって。だから機嫌直せよ」
「ウソだよ。あんなことで真琴が本当に傷つくとでも思った?」
「あのなぁ〜……」

 ………………………………………………

 ――コチ、コチ、コチ――

 でも……あんなやりとりがあってから、二人とも黙ったまま……。

 部屋にある音は時計の音だけ。 そんな状態が五分くらい過ぎてしまってる。真
琴はベットに寝転んで、その横に祐一が座ってる……。
 いつもなら、こんな状態もいいけど、今日はちょっとイヤだ……。
 そんなことを考えてたら、祐一が……。

「天気もいいし出掛けるか」
「え? どこへ行くの? 祐一」
「ものみの丘。今日は暖かいだろ、さすがに」
「……うん」

 真琴もこんな空気はイヤだったし……。 いっか、別に。
 途中、肉まんを買って、丘へと向かっていった。



 −−−ものみの丘−−−


「ハァ〜〜ッ、やっぱり暖かいな」
「祐一、オヤジくさい」
「ほっとけ」

 でも、本当に暖かい。なんか、気分も落ち着いてきたかも……。

「しっかし、こんなことになるとはな……」
「祐一が悪いんだからね。全然そういうことに疎いから」
「全部、俺のせいか!? ……いや、そうかもしれないけど……」
「あぅ……それより、本当にできてたらどうしよ……」
「……う〜ん……」

 真琴の子ってことは、やっぱり狐の耳や尻尾もついてるの……? もしそうだっ
たら、周りはどんな目でこの子を見るんだろ……。
 この子の周りも、真琴の周りみたいに変な目で見ない人達ならいいけど……。

 ――グシャグシャ――

「な〜に、暗くなってんだ? お前は」
「あうーっ……髪クシャクシャにしないでよ。悩むの当たり前でしょ」
「まぁ、そうだけどな。俺だって、一応悩んでるんだからな」
「全然見えない」
「ほっとけ。……まぁ、できてたとして、学校の方はさすがに休学か……。あと、
養育費まで出してもらうわけにもいかないから、俺も働くとして……」

 ……え? それって……

「ねぇ、祐一の悩みって、それ……? この子産んでいいの?」
「はぁ? 当たり前だろ。俺と真琴の子だろ」
「だって、もし真琴のように狐の耳と尻尾が付いてたら……」
「そんなことで悩んでたのか? お前はその姿の事で誰かに何か言われたのか?」
「言われてない。……でもこの子も同じように言われないとは限らないよ……」

 ……この子に姿のことで嫌な思いをさせてしまうくらいなら……。

「…それじゃ、堕ろすか?」
「ヤダ! それは嫌だよ!」

 そう思ってるはずなのに……。 でも、絶対に堕ろすのは嫌。やっぱり、そんな
ことできない。

「んじゃ、決定だな。真琴は休学で、俺は働くってことで」
「でも、やっぱりこの子は……。それに、戸籍とかも……」
「お前なぁ、どっちなんだ? 産みたいのか? 産みたくないのか?」
「産みいたいよ! でも……でも……」
「ならいいだろ。姿や戸籍のことなんてどうにかなるって」

 な……なに言ってるの、祐一。 そんな簡単にいくわけない―――

「……そんな顔するなよ。俺だって不安なんだから」
「え? 祐一も……?」
「当たり前だろ。俺だって真琴が考えてたことくらい考えたさ。でも、考えたって
何にもならない。俺達が守ってやるしかないだろ」
「守る……って、この子を?」
「他に誰がいるんだ。遅かれ早かれこうなる事はわかってたし、覚悟を決めて行こ
うぜ。今までだって、それで何とかなったんだしな」

 ハァ……祐一って、そういう人間だった。
 でも、祐一がそう言うと、本当にどうにかなりそうな気がする。それに、真琴の
時のように、いざとなったら出来る事全部やってあげそう。子供の為に。

「大体、その前に二人とも高校生で子供ができたかもしれないって方が問題だしな!」
「あぅ……それは威張って言う事じゃないと思う」

 でも……どうにかなるかな……? 本当に。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 でも……その帰り道のこと……。

「おい、そっちは危ないぞ、真琴」
「大丈夫だって、こっちの方が景色いいし」
「お前なぁ、丘から落ちてお腹打ったらどうすんだよ」
「もぅ、うるさいな、祐一は。大丈夫だって言って――」

 ――ズルッ――

「え……キャァァァァァァァァ――――――……」
「おい、真琴!」

 だから言わんこっちゃない。この下へはどう降りりゃいいんだ……。
 くそっ、無事でいろよ、真琴……。


−−−−−−−−−−−−−−

 ……あれ? どうしたんだっけ? 確か、丘から滑り落ちて……。
 下が草むらだったから、助かったのかな。
 でも、どのくらい気絶してたんだろ……?

「あうーっ……思い出したら、よけいに痛くなってきた……」

 なんか、捻挫したのかな? 膝や足首が痛いし。おまけにお腹も……。
 ……え? お腹って……おもいっきりお腹をぶつけた……?
 ……それに……なんでスカートや下着にこんなに血がついてるの……?

「あぅ……なんなの、この血は……? なんなのよ……これ……」

 ――ガサゴソ――

「おい大丈夫か、真琴。だから、あれほど――」
「ねぇ、どうしよ、祐一! どうしよ!」
「おい、どうしたんだよ、いきなり。……なっ……その血……まさか……」
「ねぇ、どうしよ。赤ちゃんに何かあったら! どうしたら……」
「落ち着け、真琴! 今病院に連れて行ってやるから」

 くそっ、無事でいてくれよ……。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 −−病院−−


 あの後、足をケガした真琴を抱えて、病院に来たわけだが……、

「……はい? 先生。もう一回言ってもらえませんか?」
「だからね。遅れていた生理が、丘から落ちた後に偶然に始まってしまったのね」
「あぅ〜〜〜っ……恥ずかしい……」

 つまり、医者の話によると…、真琴のは単なる想像妊娠だったわけだ。
 多分、秋子さんに相談した時に『もしかして赤ちゃんができたのかしらね』って
言われたのを真に受けて思いこんでしまったんだろうな……。

 ちなみに、足はやっぱり捻挫で、最低でも一週間は安静とのこと。まぁ、しばら
くはおとなしくしてるだろうな。

「ハァ……なんか一気に力が抜けた……」
「でも、その割には残念そうね、二人とも。でも残念だわ。せっかく初孫が見られ
るかと思ったのに」
「「秋子さぁ〜ん……」」
「それじゃ、会計を先にしてきますから、そこにいてね」

 そして、会計の為に秋子さんが病室から出た後、医者の先生が……、

「ねぇ、祐一君と、真琴ちゃん。ちょっといい?」
「「あ、はい」」
「あなた達が、ものすごく愛し合ってるのは少し見ただけでわかるわ。私が見てき
た中でも、あなた達ほどの人はあまり見ないわ」
「いえ、そんな……」
「でもね、子供ができるってことは、それだけじゃ駄目だと思うの。特にあなた達
は、普通の人達よりよっぽど大変な問題もあるわけだし」
「はい、それは……」
「今回の事はいい機会になったんじゃない? そういう事もちゃんと話し合うのも
いいわ。生涯共にするつもりならね」
「……えっ、それは……その……」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「なんか、今日はマジで疲れたな……」
「あぅ……でも、残念……」
「本当だよ。ボク、真琴ちゃんの子供見てみたかったなぁ」
「でもいいと思うよ。数年後には赤ん坊の見られると思うし」
「そうね。数年後が楽しみね」

 あの後、真琴をおぶって帰ってきた後の、夕食後のリビング。
 皆でお茶を飲んでいるわけだが……皆して、なんちゅう事を……(特に名雪と秋
子さんは)

「まぁ、いいと思うよ。予行演習だったと思えば」
「あのなぁ、名雪。予行演習って……」

 でもまぁ、そう言われれば、そうとも言えなくもないのかな……?
いつかは当たる問題だったんだし、考えるいい機会だったって思えば……。

「でも、その前に避妊をちゃんとした方がいいわね」
「う゛…。善処します、秋子さん」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ハァ……とんだ一日だったわね」
「まったく……想像妊娠とは、またはた迷惑なやつだな」
「なによ。大体、元はといえば祐一にも責任あるでしょ」
「ぐぁ……反論できない……」

 間違いだとわかったから、やりとりもこんなもんだ。

「でも……祐一が堕ろせなんて言わなかったから、嬉しかった」
「バカ、当たり前だろ。誰がそんな事言うか」
「本当に、どうにかなるのかな…? いつか本当に子供ができた時」
「なるのかな……じゃなくて、どうにかさせなきゃいけないだろ。俺達二人でな」
「そうだね……。おやすみ、祐一」
「あぁ、おやすみ……」

 実際は、どうにかなるなんて甘くないかもしれない。でも、真琴と二人でならど
うにかなる……そんな気がしてくる。
 俺達がもう少し大人になった時、それは確信に変わっていて欲しい。

 そんな事を考えながら、この騒がしい一日は終わりを告げようとしていた……。


お礼の一言

 SSをお預かりしている奏宇さんから、そのお礼も含めてこの様なSSを頂戴し
ました。

 しっぽ真琴シリーズ外伝とはなっていますが、ほとんどそのまま、『日常生活編』
に組み込めるようなお話です。
 僕も妊娠を絡めた話は考えていなかったので、ちょうど良かったというかなんと
いうか……(^^;;

 でもなんといいましょうか。こうやって自分のシリーズの話を他の人に書いても
らうのは、すごく嬉しいと同時に、何か気恥ずかしいですね(^^;;
 僕も頑張って、続きを書いていこうと思います。

 それでは、奏宇さんありがとうございました〜。


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