ねこまっしぐら♪ <1>

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「んなぁ〜」
 
 と、電信柱の横で猫が鳴いた。
 とっさに香里が名雪を羽交い締めにして、俺が猫を追い払う(この際は『逃がす』
が適当か?)

「いや! 香里離して!! ねこさんが行っちゃうよ〜〜」
「だから捕まえてんでしょうが!」
「ほれ、悪いことは言わんから今のうちにどっか行ってくれ」
「なぁ〜」

 俺が投げた煮干(こういった時のために常備)を咥えて猫が走り去ってから、よう
やく香里が名雪を離す。

「二人とも嫌いだよ…」
「嫌いで結構だ。お前のためなんだから」
「これも一種の技能よね…」

 恨めしそうな名雪には取り合わず、二人でため息をついた。

「いつもながら大した手際の良さだよなぁ」
 
 隣で感心したように北川が言う。
 さすがに3人で名雪を押さえる必要はないので(第一、北川が名雪を羽交い締めな
んかしたら傍から見てまずい状況にしか見えないだろう)、こいつはいつも見ている
だけだ。

「最近はめったに遭遇しなかったのにな」
「早く気が付いてよかったわ」

「北川、今の時間は?」

「ちょうど8時26分だ」
 
 多少時間をくったが遅刻する心配は無いだろう。
 
「さて、それじゃそろそろ行かないとな」

 と、俺が言ったとき、実は一部始終を見ていた天野が呆然として言った。
 

「あの…状況が呑みこめないのですが…」



  〜〜〜ねこまっしぐら♪ <1>〜〜〜



『名雪はな、猫アレルギーなんだ』
『こればっかりは体質だもの、仕方が無いわよね』
『うぅ…ねこさん…』

(猫好きにして、猫アレルギーですか…)

 自分の席に座って、ゆっくりと外を眺める。
 窓際の席はのんびりできるから好きだ。

(あれでは名雪先輩が不憫でなりません…私にできることがあれば良いのに)


「美汐ちゃん、休み時間だよ♪」

 そのようなことを考えていると、いきなり横から声を掛けられた。
 私のことを『美汐ちゃん』と呼ぶのはここでは1人だけなのでそのままで返事を
返す。

「…そうですね、栞さん」
「どうしたの? 元気が無いようだけど」

 こういった風に気軽に話をしてくるのも栞だけだ。もっとも最近は前に比べて他
人と接する機会も多くなったと思うけど。
 彼女とは話をしていて楽しい。知り合ったのはついこの前だが、もっと前に話し
掛けていれば良かったと後悔している。
(とっても可愛い娘ですし…) 

     ぎゅっ♪ 

「きゃっ?」

 彼女が相沢さん達の知り合いだと知ったときは驚いたものだ。
 そもそも名雪先輩とお会いできたのも相沢さんのおかげですし…

「美汐ちゃん、やめて〜〜」
「はい? あっ…」

 私はいつのまにか栞を抱き寄せて、頭を撫でている自分に気がついた。

(一体いつの間に…)
 
 どうやらこれは昔からの癖らしい。こうやっていると、とても心が安らぐ。
 
「良いじゃないですか、もう少しこうしていましょう」
「そんなぁ、恥ずかしいよ〜」

 そんなことを言いながらも、栞は無理やり逃げ出そうとはしない。いつものこと
だからだ。
 初めのうちは結構周りの注目を集めていたものだが、最近は慣れてきたようで別
段騒がれることもない。
 その代わりに、今では週に何通かは女子からの『らぶれたぁ』が机の中に入って
いる、といった事態が発生しているわけだが…

(まぁ、先日の写真部員(男)はちょっと懲らしめたら近寄って来なくなりましたし…)

 それにしても栞は抱き心地が良い。真琴や先輩と違った趣がある。

「いつもながら、栞さんは可愛いですね」

 そう言って下を見たとき、栞はうつらうつらと舟をこいでいた。
 外から入ってくる春の日差しが心地良い。

「ふみぃ…」
「今日も良いお天気ですね…昼寝するには十分です」

 ぎゅっ♪

 抱く力を少しだけ強める。

(ふふっ、美坂先輩が離したくない気持ちがよくわかりますね)

「ふにゅぅ…」
「まるで縁側の猫みたいですね……猫…」



 その瞬間に私の脳裏にとても良い(と思われる)考えが閃いた。
 この方法ならアレルギーの心配も無い。


(これなら名雪先輩も…)

 思い立ったが吉日。私は5分後には帰り支度を済まし、教室を後にした。事態は
急を要する。授業を受けている暇などあるわけが無い。


 目指すは水瀬家。秋子さんなら相談に乗ってくれるはずだろう。



 もちろん栞を起こすのは忘れなかった。他の人間に彼女の寝顔を見せるのはあま
りに勿体無いから。

「美汐ちゃん! 自分だけサボりだなんてずるいよ〜」


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